不登校専門塾や通信制高校を利用した「学び環境のコーディネート」も
不登校を経験した家庭を支援するある団体は、必ずしも学校への復帰をゴールとせず、「自分らしさを取り戻す」「すべての子どもが楽しく学び続けられること」を活動の理念にしています。そのための核となる概念が「学び環境のコーディネーション」です。
前提として、不登校をネガティブなことだととらえません。環境調整ニーズが表れているだけだととらえます。環境調整はどの子にも必要なことです。
もちろん貧困や虐待や障害などに対する環境調整ニーズもありますが、たとえば、中学受験生の親が必死になってプリント教材の整理をしたり、スケジュール管理をしたりするのも、ハイレベルな受験勉強を大量にこなさなければいけない特殊な状況にある子どもの学びへの環境調整だといえます。つまり、不登校に限らず、それぞれの子どもがそれぞれのニーズを抱えています。
拙著では、フリースクール、教育支援センター、不登校特例校、不登校専門塾、全日型通信制高校など、学び環境のコーディネーションの選択肢となり得るサービスの狙い・しくみ・内実と、そこに携わる人々の思いを詳細に描いています。
それぞれの子どもの個性や事情に応じて、これらのサービスをうまく組み合わせて、学び環境をコーディネートできれば、「不登校」という概念自体がなくなるはずです。
学力よりも大切なのは「現実検討のスキル」
でも、正式な学校に通って正式な勉強をしないと、社会で生きていくうえで必要な学力が身につかないのではないか、進学の選択肢が減りあとで困るのでないかという不安を保護者がもつのも当然です。その不安を解消するのは非常に困難でしょう。
この点について、不登校特例校ではない、ごく一般的な全日制普通科高校でありながら、全国から不登校経験者が集まることで知られる北海道の北星学園余市高校のパンフレットには、「遅れた学力を取り戻せますか?」という良くある質問に対する回答として、次のように書かれていました。
「誤解を恐れずに申し上げると、本校卒業生でも、恥ずかしい思いをしたということはあっても、教科の知識がなかったから生きていけないという子は聞いたことがありません」
「本校卒業後に『勉強で苦労をした』という卒業生は、実は多くいます。しかし、これもまた、勉強がついていけないから『大学を辞めた』という声は、ほとんど聞きません」