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ケース2:グレーゾーンなのかも?

 小学校に入学して間もなく、ユタカ(仮名)は集団登校を嫌がるようになった。学校に行けなかったわけではなかったので、時間をずらして親と登校した。

 その後ほどなく教室に行くことも嫌がるようになったので、いわゆる「保健室登校」の形に。夏休みが明けても状況は変わらなかった。むしろときどき学校に行くこと自体を渋るようにもなった。

 父親の泰行(仮名)は、自分の中にある「うちの子が、なぜ?」が抑えられない。原因がわからないあいまいさが耐えがたい。妻は比較的おおらかな性格だが、自分の子育てが悪かったんじゃないかと不安がっていた。

〈発達障害かもしれない〉

 そう思ってからは発達障害に関する書籍やネットの記事を読み漁った。初めてのところに行くと「ああしたらどうしよう、こうなったらどうしよう」と不安がるそぶりをよく見せる、何事にも几帳面できっちりかっちりやらないと気がすまないなど、たしかに多くのことがユタカに当てはまる。

 でも病院に行こうとまでは思わなかった。はっきりと原因を特定してもらいたい気持ちと、障害というレッテルを貼られたくない気持ちとが、常に葛藤していて、ふんぎりがつかなかった。

 本当に必要なら、保健室の先生や特別支援学級の先生から通院を勧められるだろうし、そう言われないということは、そこまでのことではないのだろうと思えていた。

〈いわゆるグレーゾーンなのかな?〉

 小学二年生になったある日、ユタカが、「サッカー少年団に入りたい」と言い出した。

 放課後に友達と公園で遊んでいたら、地元のサッカー少年団に所属している友達のお母さんが、「ユタカくんも来たら?」と、誘ってくれたというのだ。

 次の週末、少年団が活動するグラウンドに行ってみると、その場で試合に出してもらえた。

 同年代の子どもたちに交じってボールを追いかける息子の姿を、ちょっと離れたところから眺めた。もう何カ月も床屋にも行っていなかったから、髪はボサボサの石川五右衛門だ。でも、髪を振り乱して疾走する息子の姿は、生き生きしている。いや、まぶしいくらいに輝いている。

〈この子は、これでいいじゃん〉

 あふれ出した涙とともに、泰行は、自分から憑き物が落ちていくのを感じた。