文春オンライン

グレーゾーン?ギフテッド?「不登校」が頭によぎったら知っておきたい“選択肢”と伝えたい“大切な言葉”

note

ケース1:学校に行こうとするとおなかが痛くなる

「おなかが痛いから、学校を休みたい」

 その日、マユミ(仮名)は学校を休んだ。そして次の日も、

「おなかが痛い」

ADVERTISEMENT

 家では平気そうにしている。そんなことが一週間は続いただろうか。母親の明子(仮名)はいよいよ仮病を疑った。

「やっぱり、おなかが痛い」

「そんなに毎日おなかが痛いなんておかしいでしょ! 家では平気そうにしてるじゃない! 学校に行きなさい!」

 ランドセルを背負わせ、むりやり家から出そうとすると、マユミはドアにしがみついて抵抗した。ここで甘やかしちゃいけない。ビンタを一発かました。それでも、マユミは泣きながら抵抗した。

 毎朝が戦争だった。罵声が飛び交う。

 マユミはずっと家にいた。明子に対しては常に反抗的な態度をとった。それは、日に日にエスカレートしていった。ドアにも壁にもたくさんの穴が開いた。マユミが開けたものも、明子が開けたものもある。

 具体的には覚えていないが、何かの拍子に明子はマユミに嫌みを言った。このとき明子に投げ返されたのは罵声ではなく、ダイニングの椅子だった。

「このやろー。何、投げてんだよー!」

 咄嗟に言い放ったその先で身構えるマユミの、そのときの殺気立った目はいまでも忘れられない。まさしく般若の面だった。

 しかしその瞬間、何かが変わった。刺すようなそのまなざしが、母である自分にだけ向けられているわけではないことを悟った。怒りに満ちたその目の奥に、自分自身に対する苛立ち、焦り、悲しみを感じとった。

〈この子は学校に行きたくないんじゃない。からだが拒否してるんだ〉

 ようやくわかった。行き渋りを始めた5月からすでにふた月以上、自分は毎日、ぱっくりと開いて手当を欲していた娘の傷に、塩を塗り込んでいた。この子のためだと思って。

 小言を言う代わりに、娘の横顔をよく見るようになった。

 学校に行く代わりに、マユミはジャニーズのおっかけに没頭。「anan」の松本潤の特集を切り抜き、大事そうにファイルしているときの横顔は、椅子を投げたときとはまったくの別人で、生き生きしていて、素敵だった。

〈こんなに素敵でいられるなら、学校なんて、無理して行く必要はないのかも……〉

 初めてそう思えた。

関連記事