「ちょっと……! ヤバイヤバイ!」
……タンタンタンダンダンダンダン!!
5分としないうちに反対側の下りエスカレーターを駆け降りて来る音が聞こえてきた。
「ちょっと……! ヤバイヤバイ!」
降りて来たFくんは顔面蒼白。
「なになにどうしたん?」
「あった! バッグ! 4階にあったって!」
Fくんは3階を探索したが何もめぼしいものは見つからなかったという。自分が言い出したとはいえ、1人でこの薄暗いデパートを探索するのは正直不気味だな。そんなことを考えながら4階に向かうエスカレーターに乗り込んだのだそうだ。
その時だった。
背後から人が上がってくるような、そんな気配がしたのだという。
思わず体を端に寄せるが、誰も横を通り抜ける者はいなかった。
ゆっくりと後ろを振り返ると、5段ほど下に黒いボストンバッグだけが置いてあったのだという。
「は、どういうこと?」
「だから、バッグだけ置いてあったんだって!」
「で、バッグどうしたんだよ」
Fくんいわく、4階に着いた後、彼のあとを追うようにエスカレーターに乗った黒いボストンバッグはゆっくりと登ってきて、Fくんの足元、エスカレーターの終わりの部分で、カコンと引っかかったのだという。
黒い色。革が所々はげた長い持ち手。貼り紙にあった特徴とそっくりなボストンバッグ。
「そのまま?」
「持ってこれるわけねえだろ!」
冷風吹き付けるエスカレーターの踊り場で、額に汗を滲ませたFくんは声を荒げる。一行は4階に登っていった。