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人間の生首が、それぞれこう言った

 彼らはあのデパートにいた。

 人気のない、薄暗く、冷房が効きすぎているあのカビ臭いフロア。

 気がつくとエスカレーターの前で、横倒しになった黒ボストンバッグを眺めていた。

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 だが、その口が開いている。

 ズルッ……と腕が出てきた。

 グニャリ……と不自然に曲がりながら、服を着た胴体が転げ出てきた。

 ドサリ……と左足、右足も出てきた。

 ゴロン……と最後に、人間の頭が転がり出てきた。

 その生首は……ここだけ、夢の内容が三者三様だったそうだ。

 Fくんは片思いの相手、Kくんは小学校の頃の親友、そしてTくんは母親の顔だった。

 それぞれが大切にしている人間の生首が、それぞれこう言った。

 ――「なんであのとき、たしかめなかったの?」――

 ――「なんであのとき、あけてくれなかったの?」――

 ――「なんでなかみを、みなかったの?」――

©iStock.com

 それ以来、この夢を3人が見ることはなかったそうだ。それからほどなくして、例のデパートは解体された。

 数年が経ち、彼らが大学生になった頃には、別の商業ビルが建っていた。

 だが、そのビルでは“黒いボストンバッグ”の噂は一切出ていないという。

 Tくんの姉・Yさんからこの話を聞いたかぁなっき氏が追加調査をしたところ、そのデパートがあった地域と同じ、九州北西部のとある県に関する心霊スポットを紹介した掲示板に、「某商業施設に変な女が出る」と書かれていることがわかったそうだ。

 かぁなっき氏は最後にこう話した。

「やっぱり転々としているんでしょうかね、彼女。誰かがバッグを開けるまで」

(文=TND幽介〈A4studio〉)