人間の生首が、それぞれこう言った
彼らはあのデパートにいた。
人気のない、薄暗く、冷房が効きすぎているあのカビ臭いフロア。
気がつくとエスカレーターの前で、横倒しになった黒ボストンバッグを眺めていた。
だが、その口が開いている。
ズルッ……と腕が出てきた。
グニャリ……と不自然に曲がりながら、服を着た胴体が転げ出てきた。
ドサリ……と左足、右足も出てきた。
ゴロン……と最後に、人間の頭が転がり出てきた。
その生首は……ここだけ、夢の内容が三者三様だったそうだ。
Fくんは片思いの相手、Kくんは小学校の頃の親友、そしてTくんは母親の顔だった。
それぞれが大切にしている人間の生首が、それぞれこう言った。
――「なんであのとき、たしかめなかったの?」――
――「なんであのとき、あけてくれなかったの?」――
――「なんでなかみを、みなかったの?」――
それ以来、この夢を3人が見ることはなかったそうだ。それからほどなくして、例のデパートは解体された。
数年が経ち、彼らが大学生になった頃には、別の商業ビルが建っていた。
だが、そのビルでは“黒いボストンバッグ”の噂は一切出ていないという。
Tくんの姉・Yさんからこの話を聞いたかぁなっき氏が追加調査をしたところ、そのデパートがあった地域と同じ、九州北西部のとある県に関する心霊スポットを紹介した掲示板に、「某商業施設に変な女が出る」と書かれていることがわかったそうだ。
かぁなっき氏は最後にこう話した。
「やっぱり転々としているんでしょうかね、彼女。誰かがバッグを開けるまで」
(文=TND幽介〈A4studio〉)