「もうお帰りいただいて結構ですよ」
1階に着くや、エスカレーター脇にあるサービスカウンターにいた、気の抜けた表情の受付の女性に一同は堰を切ったように話しかけた。
「カバン! あの! 今、あの!」
「4、いや5階で!」
「女がいて、貼り紙の!」
「あー……」
受付の女性はゆっくりと頷く。
「はい、はい。わかりました。言っておきますので、もうお帰りいただいて結構ですよ」
受付の女性の言葉はそれだけだった。
デパートの扉を開けると、モワッとした熱波とともに、なんだかホッとするいつもの気配が戻ってきた。
腕を触ると、冷房のせいか先ほどの出来事のせいか、体がキンキンに冷えてしまっていた。
「あの受付の人、なんだよあの態度……」
「絶対いたずらだと思ったんだろうな……」
「いや」
Kくんが、息を整えながらぽつりと呟いた。
「多分あれ、知ってたんだよ、前から、何度も何度も見てて、慣れっこなんだよ」
その日の夜の夢
だが、この話はここで終わらなかった。
その日の夜、Tくんは家族にこの話をしたが、誰も本気で受け取ってくれなかった。かぁなっき氏の知人である姉のYさんも、そのときは弟の冗談だろうとしか思わなかったそうだ。
Tくんは自問する。気のせいだったのか? 全部?
いや、到底そうとは思えなかった。
今日はもう寝よう。そう思い、食事と風呂を済ませ、早々に寝床についた。
そして、Tくんはとある夢を見て飛び起きた。
心臓がバクバクと鳴り響いている。どうしても寝付けず、そのまま朝まで過ごしたそうだ。
翌朝、学校の教室の扉を開けると、Fくんの机のそばにKくんが立っており、教室に入ってきたTくんにやつれた表情を向ける。
TくんがFくんの隣にある自分の席に座ると、Fくんが「見たか?」と言ってきた。
背中に冷や汗が流れる。
「夢?」
「マジかよ……」
Kくんが絶望したような声を漏らす。
全員が同じような夢を昨晩見ていたという。