第6位 跳ねる羽生九段
――これはちょっと珍しいシーンというか、なんでしょう?
野澤 『将棋世界』で羽生九段を撮影したときの一枚ですね。等々力渓谷で、この日はいろんなカットを撮らせてもらいました。この石段の上まで登って撮影したのですが、降りてくるときに、ふと羽生九段が石段を跳ね降りる姿が浮かんだ。もちろん国民栄誉賞で永世七冠の棋士に怪我をさせるようなことがあってはならないのですが、手すりを持ってポンという感じならいけるのではないかと思いました。それでお願いしてみると、「はあ~、こうですか?」と言って跳んでくれたのです。羽生九段のこんな躍動感のある姿、なかなかお目にかかれませんよね。
これまでも羽生九段にはいろいろな取材をお願いしてきましたが、出来る限り応えようとしてくれました。将棋の普及とメディアとの関わりについて、ご自身が担うべきことを考えてくださっているのだと思います。
――そういえば、野澤さんは羽生九段の“壁ドン”写真も撮られていましたよね?
野澤 (笑)、あれはですね、私の発案じゃないんですよ。『FLASH』での撮影ですが、担当編集者が熱烈な将棋ファンにして鬼才でして、羽生九段の記事を作るときに私に「羽生先生に壁ドン写真をお願いしてほしい」と言ってきたのです。思わず吹き出しましたが、考えてみれば確かにインパクトがある。羽生九段の壁ドン写真は史上初でしょう。
取材時間が短く、インタビューと撮影を合わせて30分しかなかったのですが、お願いすると「こうですか」と表情やポーズを変えていろいろやってくれました。
――本当にサービス精神をお持ちというか、素晴らしいですね。
野澤 棋士はみんなダメなものはダメとはっきり言うので、もちろん全てを受けてくれるものではありません。羽生九段の寛容さに甘えすぎてはいけないですが、将棋ファンをここまで喜ばせることができる棋士は他にはいない。カメラマンとしては相手の尊厳を傷つけることなく、アイデアを出し、可能な範囲で交渉する気持ちは必要だと思っています。
第5位 封じ手を待つ間
――次の写真は第31期竜王戦第7局からです。1日目の終わりに挑戦者の広瀬章人八段が封じ手をすることになりました。それを待つ羽生善治竜王と立会人の藤井猛九段のお二人が、なんともいえない雰囲気ですね。横並びのツーショットだけでも、ファンにはたまらないものがあります。
野澤 対局場となった山口県下関市の「春帆楼」は、日清戦争の講和条約が締結された旅館です。タイトル戦は歴史ある場所で行われることが多いですが、その中でも指折りの会場でしょう。