濱谷 監督とかスタッフの誰かが熱くなると、現場でそれが伝染していくよね。
松本 本当に、そうなんですよね。キスマイの北山宏光くんにも監督の熱が伝染して、僕の当初の予想を超えるような、痺れる芝居をしてくる。そうなってくると「あぁ、作品って化けるんだな」と。
第1話の放送後、見逃し配信の再生回数が200万回ぐらいになったときは、本当によかったなと思いました。
「原作に忠実すぎ」はアリなのか問題
濱谷 僕はドラマをつくるうえで「熱意、誠意、創意」の3つを大切にしているんですが、中でも「創意」は不可欠だと思います。
原作があるドラマの場合は、原作に沿ってつくるのがもちろん正しい姿勢です。が、ひたすら忠実に作ることを目的にすると「じゃあ原作を読めばいいじゃないか」となりますよね。
だから僕は、原作ものをドラマとして立ち上げるときは、別の角度からの視点も加えて形にしたい。そこで、『きょうの猫村さん』(2020)ではアプローチを変えてみました。あの作品は、松重豊さんで猫を実現できたのがよかったなと。
──猫のかぶりものをした松重さんが、独特な雰囲気を醸し出していましたね。
濱谷 ありがとうございます。他には、『フルーツ宅配便』(2019)も原作ものです。これは、原作のマンガ第1巻を読んで、「絶対に僕がドラマにしなければ!」と使命感に駆られて。でも実は最初、会社から「デリヘルの話がドラマになるわけない」と言われて、頓挫しかけたんですよ。
切り口や見せ方で「無理」と思える作品も形になる
そこで、ダメ元で白石和彌監督にマンガを送ったところ、すごく興味を持っていただいて。結果、放送文化基金賞の奨励賞もいただいたので、立ち上げから放送まで2年半かけた甲斐がありました。
──『フルーツ宅配便』には、そんな背景があったんですね。あのドラマはデリヘルがテーマでしたが、「行為を直接映さない」のが話題になりました。
濱谷 テレ東基準では、ゴールデンタイムだと「デリヘル」という言葉自体もNGなんですよ。そして、深夜枠でも見せられない表現もありまして。ただ、あのドラマはそういう性表現が目的ではなく、社会問題である貧困女子の人間ドラマを描きたかったので、制約が厳しいとは思いませんでした。
キャストや監督、切り口や見せ方で、無理と思える作品も形になる。自分が関わった作品の中に、「自分だからできた創意を盛り込めたか」は常に考えています。