1ページ目から読む
2/5ページ目

祖父江 主人公=私の全てではないですが、どこか必ず理解できる部分があると思います。だから、「生きづらさやこじらせを抱える人たちが、私の作品を見たらどう思うか」は常に意識しますね。

配信時代には「一部ウケ」のニッチなテーマも需要増

松本 祖父江さんはすごいエゴサしてますよね。

祖父江 たぶん、テレ東ドラマ室で自分の作品を一番エゴサしているのは、私です(笑)。

ADVERTISEMENT

 バラエティにいた頃は、「私が見たいものは、世の中の人が見たいものとずれているのかもしれない」という不安がずっとあったんですが、今は「私が見たいなら、世の中の女性の何百万人もそう思っているはず!」と信じるようにしています。

©iStock.com

──祖父江さんの発想が変わったのは、何かきっかけが?

祖父江 『来世ではちゃんとします』で手ごたえをつかめたのもありますが……一番大きいのは、時代の変化ですね。

 私が入社した2008年頃は、業界全体がまだ視聴率至上主義なところがあったので、「マスからこぼれるものに価値はない」とされていました。でもこの10年で、配信やサブスクなどが世間に浸透しましたよね。その流れで、これまで「こぼれるもの」だった小さな面白いものを、すくい上げられる環境が整ってきたと思うんですよ。

 そうした背景と、年齢と共に私の心が変化したこと、ドラマ室に異動したことなどが、同時につながった感じです。

スタッフの熱量を自分以上に引き上げる

松本 僕が心がけているのは、「ドラマに関わる人たちのテンションを、僕よりも上げること」。関わる人とは、脚本家や監督、カメラマン、照明マン、音楽スタッフ、キャストなど、その作品に関わる全員です。

 特に撮影スタッフたちは熟練の手練れも多いので、現場入りすると「年間何本も撮るうちの1本」という感覚になりがちなんですね。でも、僕はそれだと困るんです。

松本拓さん

──「特別な1本」にしてもらわないと。

松本 そうです。企画が通った時点では、僕が誰よりもテンションや熱量が高いです。でも、ドラマを作るうちに、他のスタッフや役者さんの熱量が、僕よりも上回ってほしい。

 だから僕は、わりと積極的に飲みに行ったり、徹底的に打ち合わせするなどして、スタッフにできるだけ思いを伝えます。そうすると、カメラマンもいいアングルで入ってきたりして。こういう瞬間が積み重なってくると、いい作品になる気がします。

──どの作品でそう感じましたか。

松本 たとえば『ただ離婚してないだけ』(2021)ですね。僕のパワーが100だとしたら、監督の安里麻里さんは200ぐらいになっていて(笑)。それを見たときに、「やられたな」と思いました。

 撮影中は、安里さんから僕に「明日の撮影のこのセリフが……」など、ほぼ毎日電話がかかってきて。そのときは「いい加減にしてくれ」と思うほどだったんですが、ドラマが終わってみると、やっぱりすごいいい作品になったな、と。