――面白いです。人間の比喩で、街のことを考えてみる。
桃井 たとえば、コンカフェの客引きの女の子がいっぱい中央通りに立っている風景や、そうやって人を集めていたお店の中に風営法違反で営業していたところがあって摘発されたなんてニュースばかりが、秋葉原の話題として取り上げられがちです。インパクトがありますからね。でもそういうわかりやすいところじゃなくて、たとえば東京ラジオデパートが最近、大変面白いんですよ。萌えの街とみなされる前、パーツ街だったころの秋葉原の雰囲気がある。元々そこにある「家電のケンちゃん」というお店には良く行っていたのですが、最近そこでファミコンソフトの新作を売っている人がいるんです。
――新作? 「新品」ではなくて?
桃井 「新作」です。ファミコンで動く、新作のゲームを作っている人がいるんです。「家電のケンちゃん」には古いファミコンソフトをランダムで出すガチャが置かれたりもして、私は最近はそれをやりに通っています。そうするとまんまと他のものも見るようになり、Macの中古品や、昔のPCエンジンGTやLTを最新の綺麗な液晶パネルに嵌め替えて、電池も持つようになって売られていたりするものが気になってくる。同じ建物の地下には「秋葉原最終処分場。」というジャンク屋があって、そこが昔ながらのジャンク屋の雰囲気なんです。ゲーセンの椅子が大量に売っている、みたいな。どこかのゲーセンがつぶれて、流れてきたんでしょうね。あの、ベルベット生地のちっちゃい椅子。
――ゲーセンにしかない、あの円形のやつですか。
桃井 「すごく欲しい!」と思ったのですが、別の日に行ったらもう売れてしまっていました(笑)。ある日はiMacが大量にあって、「5000円でいい」といわれたんですけど、買ったところで何に使うのか。水槽にして金魚でも飼うかな、みたいな。ほかにもジャンク品から普通に使えるパーツまで売っているんですが、面白いのがハードディスクを破壊してくれるサービス。専用の壊す機械で、目の前で完全に破壊してくれる、「黒歴史最終処分場。」というサービスがウリなんです。
怪しげなものを買う場所だった秋葉原が「信用の街」に
――名前のセンスがいいですね(笑)。
桃井 そこのグッズもかわいくて、帽子やホテルキーホルダーみたいなグッズが出ていてすごく売れるそうですよ。「家電のケンちゃん」の隣の「Shigezone」というお店もいいんですよね。老舗のお店が辞めていく中で、明和電機の公式ショップが入ったことによって、建物全体の雰囲気が少し変わったかなと思います。ほかの場所でも、もともと東京ラジオデパートの中でやっていた「KVC lab.」というアーケードゲーム基板屋さんが、今年になって別の場所に店舗を構えたんです。それが今年の7月に出来たばかりなのに、どう見ても30年くらいやっていそうな店構えなんですよ(笑)。
――まったく知らない世界です……すごい。
桃井 「KVC lab.」は海外からの通販注文が多いらしいんです。どうも海外の人にとっては、「秋葉原に店舗がある」ということが信用に繋がるみたいで。
――ああ! なるほど! よく知られた地名で、オタクに強い電気街のイメージもあって。
桃井 面白いですよね。私は昔、秋葉原は怪しげなものを買う場所だと思っていました。でも今じゃ、例えばLEDって、通販でいっぱい買うと、光の弱いものも混じっていたりするので、結局自分で検品をしないといけないんです。本番で使うときに不良品に気づいたらイヤじゃないですか。でも秋葉原のLED専門店に行くと、ちゃんと光るかどうかをひとつひとつ試してくれるんです。液晶パネルも同じで、お店だとその場で点灯させて、ドット抜けがないものを選ばせてくれる。そういう変化で、最近は逆に、秋葉原が信用の街になってきているなと感じています。