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「『アキバくんが悪い女に引っかかっている!』みたいに言わないで(笑)」“コンカフェの街”へと変わる秋葉原をそれでも桃井はるこさんが応援する理由

桃井はるこさんインタビュー#3

2022/12/29
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――パーツ街に戻ってきたけれど、昔とは同じじゃない。

桃井 ジャンク扱いの安いパーツを自己責任で買って、自分で修理して使う、昔ながらの楽しみ方もありますけどね。でもそれも、秋葉原にリアルにお店を構えている人と顔が見える取引をすることで、ただ適当にやるのとは気持ちが違うというか。「秋葉原ブランド」というものがまだまだあって、それを守っている人もいる。「菊地無線電機」の菊地さんも、90歳でまだまだ元気にやっている。そういう秋葉原のことを見落とさないでほしいです。

©️iStock.com

――今のアラフォー、アラフィフくらいのオタクだと、やはり「萌えの街」だったころのインパクトが鮮烈で、「街の顔が二次元美少女のイラストからコンカフェになった」みたいな感覚が強いんです。それでちょっとアキバから足が遠のいてしまう。でも桃井さんのお話をうかがっていると、むしろ90年代の末のような、「萌え」以前のアキバが復活してきている印象に変わってきました。

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桃井 つまりアキバくんが9歳に戻ってきているんじゃないかな、と。そうすると、これから14歳になる。私は『STEINS;GATE』という作品にフェイリスというメイドカフェの女の子の役で出演させてもらっているのですが、海外のイベントに行くと必ずその作品のコスプレをしている方に会います。ゲームの発売日からも、最初のアニメ化からも10年以上経っているのに、ずっと愛されている作品なんですね。日本国内でも、今でもいろいろなゲームとコラボしていて、なんで長い間、あんなに人気があるんだろう? と不思議に思って、考えてみたことがあるんです。

――どう分析されたんですか?

 

「やっぱりリアルでも集まれる場所が欲しい気持ちはあるんだろうな」

桃井 きっと、あの作品で主人公たちが集まる「ラボ」みたいな、溜まり場的なものにみんな憧れているのかな、と。『STEINS;GATE』の主な舞台は秋葉原で、裏通りにある、行くと誰かがいる溜まり場が「ラボ」。私が最初に秋葉原で通うようになったメッセサンオーの海外ゲームコーナーは、今思えば「ラボ」みたいな感じだったわけです。そういうサロン的な、行くと誰かがいて、好きなことをしていてもいいし、ちょっと語らってもいいような、そんな場所に憧れを持つんじゃないかな、と思います。今の東京ラジオデパートのお店に行くと、みんな、相変わらずひとりで来ているんだけれども、お店の人と話し込んだり、あのころの雰囲気があるなぁと。「Shigezone」の店主さんは、「店頭で話すと迷惑なんだよ」と言っていたりもして、そうやって口では嫌がってみせるところも昔ながらのアキバっぽいなと思ったりして(笑)。

――なるほどなぁ……。

桃井 オンラインでも、VTuberの動画のコメント欄に集まったり、Discordサーバーを立てて連日やりとりをしていたりする人たちを見ていると、「ラボ」に似ているなと思うんです。それはそれでいいものだけど、やっぱりリアルでもそういう場所が欲しい気持ちはあるんだろうな、と。『アキハバLOVE』に収録した文章の中に、秋葉原はサービスの街になっていくだろう、みたいなことを書いたものがあったはずなんです。あの本は赤裸々に書いた自伝的な部分が多くて気恥ずかしいので、なかなか読み返せないので、ちょっとうろ覚えですが(笑)。

――時代の空気をパッケージングした名著なのに。

桃井 ありがとうございます。読みたいと言ってくださる方も多いので、電子書籍にしたいんですけどね。どこから手を付けたらいいのか、よくわからなくて。

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