もう一度考え直してもらうための掲示板も
「もう一度生きる方向を考えてほしい」
関東地方在住の会社員、ミノル(34、仮名)は03年10月ごろ、関西に住むミホ(17、仮名)が計画していた「ネット心中」を止めようとしていた。家族問題などで悩んでいたミノルは、もともと8月上旬に「ネット心中」志願者として、集団自殺のメンバーを募っていた。その時に掲示板でミホと知り合った。
募集したミノルは応募者たちと実際に会ったり、メール交換していたが、「この人となら死んでもよい」と思える相手には会えなかった。徐々に、「死ぬにもエネルギーがいる」と思い、「ネット心中」を考えなくなってくる。こうした思考の変化が起きたのは、掲示板の管理人とのメールのやりとりが大きかった。
管理人は、自殺遂行のためではなく、もう一度考え直してもらうために掲示板を作った。結果、ミノルは、自殺を止める側になっていた。実際、何組かの「ネット心中」を断念させた。
絶望していたミホは…
「彼女はまだ死ぬべきではない」
ミホと話をしたことで、ミノルは素直にそう思った。しかし、ミホは抜けきれず、志願者を探す毎日だった。9月初め、ミホから〈40代の男性と(ネット心中の)約束をした〉とのメールが届く。結局、その男性との心中は失敗した。
「40代の男と女子高生の2人きりですから、(性的なことで)何かあっても不思議ではない。睡眠薬を飲ませていたら、何があっても抵抗できませんから。断定はできないが、ミホは話しぶりから40代の男に性的いたずらをされた可能性もあります」
また、筆者とのメール交換の中で、ミノルはミホの絶望感にも触れている。
「家族関係、特に母親との関係が『もうだめ!』と言っていました。希望通りの学校に合格できなかったことで、中学3年の終わり頃から自殺願望を抱いていたようです。自責の念からの自己否定感情がありました。『自分は悪い子だ』と思っていたようです。それに高校卒業後の進路についても悩んでいて、自分の希望とは違う周囲の期待に沿うように努力していたようです」