1ページ目から読む
5/6ページ目

 このあたりは新聞記事というより、テレビ・ワイドショーの再現ドラマのよう。当時の新聞ニュース自体にそうした性格があったということだ。

「小林を殺せば…」きぬによぎった“悪念”

 明治時代の新聞は、新しく生まれた政党の主張を載せ、天下国家を論じる言論活動中心の「大新聞」と、読み物など娯楽中心の「小新聞」に分かれていた。郵便報知は「大新聞」に位置付けられていたが、それでも、こうした下世話な話題を載せて読者を増やそうとしていたのだろう。物語はいよいよ核心に近づく。

〈収まりかねるのは煩悩の火で、“再び燃える焼けぼっくい”。小林の目を忍んでたびたび会っていたが、璃鶴もさすがに「主」ある女と聞いて何か気味が悪く、ある日きぬに「これまでは独身と思っていたから将来を誓い合ったが、小林様の愛妾と知ってはそれはできない。きょう限り縁を断ち、いままでは変な夢を見たと諦めよう」と言い放った。

ADVERTISEMENT

 その後は会わないように努めていたが、きぬのたっての頼みにちょっとぐらいはと心を許したのが運の尽き。きぬは男の膝に顔を押し当て、「もし私を嫌ってこのまま会えないのなら、焦がれて死ぬのも、いま死ぬのも同じ。いっそここで」と、用意したカミソリを取り出し、ひらめかしながら口説く言葉に、璃鶴も「男傾城(遊女)」の悲しさで断りきれなかったのだろう。軟化して二人は再び悪い夢に戻った。〉

〈恋の欲が日増しに募り、思う男に会うには人の目のはばかりが多く、といって小林は暇を取るのを受け入れず、いろいろ思案も尽き、切羽詰まったところから、「優しき如菩薩の梨花海棠も色を失い、悪鬼羅刹も物の数ではなく」恐ろしい悪念を起こした。「縁切り榎も効果がないうえは、仕方がない。恩も義理も、いとしい男には替えられない。小林を毒薬で亡き者にし、恋人と夫婦になって楽しみたい」と一人うなずいた。

 ある日「蕃木鼈(マチン)」を4~5粒購入。以前から出入りしている深井伊三郎をだまして頼んで粉末にし、煮しめの中に混ぜて小林に勧めたが、あまりの苦さに二度と手を付けず、薬の効き目も表れなかった。〉