殺(や)ったのは2000人以上。殺られたのは200回近く。撮影で折った骨は全身約50箇所。強面と鍛え上げた体を身上に、40年の俳優人生で与えられた呼び名は“顔面凶器”――。

 300本もの作品で不良やヤクザを生きてきた小沢仁志さんが還暦を迎えた。その節目に製作された映画が主演、脚本、製作総指揮を務める『BAD CITY』だ。1月20日より全国で順次公開される。

小沢仁志さん

 物語の舞台は暴力団と韓国マフィア、そして裏社会と繋がりをもつ五条財閥の欲望が渦巻く「開港市」。この街には拘置所に眠る刑事がいた。野性が潰えない眼と遠雷の如く重く不穏に響く声。小沢さん演じる虎田誠だ。

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「ギラギラしないように抑えたんだよ。虎田の腹ん中を表情や動きで伝えなきゃ駄目だと思ったから。怒ってる、やる気だな、って。過去に演(や)った作品には“この脚本、説明しすぎだよ”ってのもあってさ、オレが芝居できないってナメてんの? こんなに喋んのやめようよ、って思ったこともあったよ。だから、余計なものを省いた芝居を、皆の力量を見せてくれ、そういうことは現場で言ったよね」

 小沢さんの下には波岡一喜、山口祥行、壇蜜、加藤雅也、リリー・フランキー、そしてかたせ梨乃らが集まった。

「韓国マフィアのマダム役の梨乃姐(ねえ)、ノッてたね。波岡は撮影の最後の方で合流したけど一発目から血管キレそうなテンションでさ。ベテランだけじゃなくてオーディションで選んだ新米女性刑事や組長の娘役の子も、いいもの見せてくれたよ。全員が同じ思いでいてくれてさ、人のパートの空気を自分のシーンでも活かそうとしてくれたんだよ」

 虎田は特捜班班長に選ばれ娑婆へ放たれる。収賄・談合を疑われる五条財閥会長が無罪放免となった背景には何かあると睨んだ検事長が、特命チームを結成したのだ。

「はじめはカーチェイスやアクションが盛り沢山の脚本でさ。園村健介監督はアクション監督でもあるから派手で勢いのあるテイストで来ると思ったんだけど、情緒を大切に、抑えた色で仕上げたね」

 基調はハードボイルド。ただ、アクションシーンも存分にちりばめられている。

「韓国マフィアのヒットマン役の『TAK∴』はデビューの頃から知ってるけど、この作品で初めて“殺り合え”てメチャ楽しかったよ。アイツとの格闘は殺陣なしのフリー。互いに殴り合うんだけど、アイツ速えんだ。オレが思わずニヤッとしたらアイツもニヤッと返してきてさ、堪んなかったね。仲のいいテレビマンに仕上がり見せたら『こんなことやっていいんだ!』って驚いてたよ。事故を恐れて現場がどんだけコンプライアンスに縛られてるかって話だよ」

 撮影前の1年間、サンドバッグと向き合った。決してアクションのためだけではない。

「格闘家やレスラーって“匂い”があってさ。役者も同じ。出るんだよ。だから常に纏ってないと。マラソンはさ、ゴールがあるから走れるんだ。30代も良かったよ。でもさ、先が見えてきた今が一番楽しいよね」

おざわひとし/1962年、東京生まれ。84年、『スクール☆ウォーズ』で本格的に俳優デビュー。以後、多くの映画、ドラマに出演。スタントを殆ど使わないアクション俳優としても知られる。OZAWA名義で監督や企画、脚本も担当。公式YouTubeチャンネル『笑う小沢と怒れる仁志』随時更新。

INFORMATION

映画『BAD CITY』
https://www.badcity2022.com/