愛知の山里で一人暮らす陶器職人。その工房から遠くない団地で燻りながら生きるブラジル人青年たち。彼らに排他的な視線と苛立ちをぶつける半グレ集団。そして、遠く北アフリカでプラント建設に携わる陶器職人の息子――。
1月6日より全国公開される映画『ファミリア』。成島出監督は、異なる境遇が生む分断、そしてその溝を埋(うず)めんとする、大きな愛を映し出した。
「脚本のいながききよたかさんにプロットをいただいた2019年からの4年弱で、世界の分断は一層深く、また各国での出来事が我々の生活に影響を与えるほど感覚的に近くなってきていると感じます。この世界で私たちはどうあるべきか。それを最小単位である家族から考えたいのです」
別の世界の、それぞれのドラマ。それが一つの大きな物語として編まれることになる。
「山里の陶器職人とブラジル人が一体どう結びつくのか。いながきさんにはどれも“現実”でした。瀬戸市で窯業を営む家に育ち、隣町にはブラジル人が多く住む団地があった。そして知人が勤める大手プラント建設会社はアルジェリアである事件に巻き込まれました。すべて地続きの世界として存在していた。だからこの物語には力があるんです」
陶器職人の神谷誠治(役所広司)のもとに、アルジェリアにプラントエンジニアとして赴任中の息子(吉沢亮)が現地の女性を連れて帰国した。息子は結婚の報告とあわせて、いま進めている仕事が終わったら会社を辞め、愛知で焼き物をやると打ち明け再びアルジェリアへと発っていく。
隣町の団地群には在日ブラジル人コミュニティーがあった。彼らは日本経済を底辺で支えていた。そして町の闇間に巣食う半グレ集団のリーダー榎本海斗(MIYAVI)は凍てついた眼でブラジル人青年を執拗に追い込んでいた。
「MIYAVIさんは世界の難民キャンプを歩き、音楽を通した支援を行っています。この作品で強烈な個性を放っていますが、海斗を演じるにあたり闇雲にブラジル人を敵視するのではなく、納得できる理由が欲しいと仰いました。その理由は、物語の一つを構成するものになっています」
誠治はある事件に巻き込まれ哀しみにまみれることになる。そこに寄り添うのが佐藤浩市演じる、刑事の駒田隆だ。
「役所さんと浩市さんのようにトップを張ってきた人が向き合うと化学反応が起きる。私は主要キャストに、生い立ちをまとめた『人生ノート』を渡しています。誠治と隆はどんな過去を生きてきたのか。その肉付けが、少年時代に苦しみを分かち生きた二人の物語をも感じさせるのです」
老いた獅子――役所広司の佇まいからは、枯れることのない強さが立ちのぼる。
「ヒーローではない。暴力的でもない。でも強い。それは役所さんの品格だと思っています。もう失うもののない男の姿を、役所さんは見事に見せてくれました。すべて“本物”にしたい、大人が楽しめるものにしたい、その思いを込めて完成させた作品です。是非、見ていただきたいです」
なるしまいずる/1961年生まれ。86年『みどり女』でぴあフィルムフェスティバル入選。『孤高のメス』『聯合艦隊司令長官 山本五十六』などを監督し、2011年公開の『八日目の蝉』では日本アカデミー賞最優秀作品賞など10部門で最優秀賞を受賞。最新作『銀河鉄道の父』が2023年5月5日公開予定。
INFORMATION
映画『ファミリア』
1月6日公開
https://familiar-movie.jp/