ケアマネジャーの小暮さんも残念そうにそう言った。父はすでに区役所から「要介護3」の認定を受けており、私は小暮さんと「居宅介護支援」の契約を済ませていた。彼を通じて様々な介護サービスを受ける予定だったのだが、「お父さんの場合はちょっと……」とのことなのである。
例えば、認知症の介護でよく利用される「デイサービス」。車で迎えに来てくれて父をしばらく預かってくれるというサービスなのだが、おそらく父はひとりでは車に乗らないだろう。無理やり乗せようとすれば「なんでだ!」と怒号をあげるので私が同行しなければならず、途中で「帰る!」と言い出さないようにデイサービスの施設でも付き添うことになる。ずっと付き添うのではデイサービスの意味がないのだ。
「特別養護老人ホーム」も然り。市内の特別養護老人ホームはいずれも満杯で数百人が待機していると聞き、早めに申し込んでおいたほうがよいと思ったのだが、小暮さんに止められた。実は待つ人の多くは要介護の緊急性があまりなく、父は申し込めばすぐに入所できるという。
しかし入所すればおそらく父は「なんでだ!」「帰る!」などと言い出し、勝手に施設から出ていってしまって施設側に迷惑をかけることになり、一度そのようなことをすると再入所が難しくなる。それゆえ申し込みはしばらく控えたほうがよいとのことなのである。そこで小暮さんから提案されたのが「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」というサービスだった。月に2万円ほどの自己負担で、家に緊急通報用の電話が設置され、ヘルパーが1日に何度も家に来てくれる。安否確認はもとより、頼めば掃除や洗濯、用意しておいた食事を出したりお茶もいれてくれる。定期的な訪問看護も付いているそうなのだ。
――それはありがたいです。
すぐさま私は小暮さんにお願いした。そして念のため、父の承諾を得ようとしたのだが、説明の途中で怒り出したのである。
再び始まってしまった父の「問題行動」
「な、なんでだよ! なんで来るんだ!」
――だって、ひとりじゃ生活できないでしょ?
「俺はできる。なんだってできる。冗談じゃない!」
――来るっていったって、巡回だから。挨拶するだけでもいいんだから。
「ふ、ふざけるんじゃねえ!」
リビングで仁王立ちする父。私のほうこそ「ふざけるんじゃない」と怒鳴りたかったのだが、この状態ではヘルパーにもご迷惑がかかりそうなので、小暮さんに連絡し、サービス申し込みはしばらくペンディングにすることにしたのである。