一通り調べた後、羽生が「じゃあ封じ手のところは、すでにまずい?」と問いかけると、高見が「△3三玉のところで△4三玉は?」と言うと、羽生は「あー、こっちの人ですかあ。こっちの人なんですか」と驚き、羽生の擬人化した表現に藤井も思わず笑った。
調べてみると、それならばまだまだ大変だったが、この位置で玉が頑張る手は読みにくい。そもそも2回の3手1組を看破し、△3三玉を読みから削除しなければ指せない。
帰りの新幹線の車中、棋譜を眺めながら戦いを反芻した。
羽生側の修正手順はどれも難しい。金を上がるところで自陣角を打つ手もAIは示していたが、羽生が「そんな手は1秒も読みませんでした」と言ったように相当指しにくい。
いや、この将棋だけでなく、それまでの2局もそうだった。第1局では桂打ちを防ぐために、じっと銀が下がる手が正解だった。また、第2局は自陣飛車を打って竜を消しに行く手が正解だったが、これは藤井すら拒否する手だった。
もうすぐアンインストールが終わりそうだ
高見は感想戦が終わった後、「直感では浮かばない手、人間には指しにくい手が正解である将棋になることが多いですよね」と嘆息した。定跡が進み、AIを使ってレベルアップしたことで、将棋はとても難しくなった。だが、そこから逃げるわけにはいかない。
藤井の指し回しは完璧だったが、まねはしにくい。あの飛車浮きは、これが最善手だとAIに言われても敬遠する棋士が多いだろう。2回の3手1組は、思いつくのも読み切るのも大変だ。
藤井は守り駒がいなくとも、玉頭に歩のクサビを打たれても平然としていた。怖いとか筋が悪いとかといった、「人間的な感覚」を徹底的に排除しようとしている。もうすぐアンインストールが終わりそうだ。
もし、そうなったときには、彼は……。
羽生が何度も何度も「こっちの人なんですか」とつぶやいたことが耳から離れない。藤井に勝つために、「こっちの人」になるために、羽生は、戦い続ける。
再び羽生の先手番となる王将戦七番勝負第4局は、2月9日(木)からSORANO HOTEL(東京都立川市)で開催される。
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