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二人の会話はまるで宇宙人 “最強オールラウンダー”羽生善治が抜いた「伝家の宝刀」を藤井聡太はどう受け止めたか

二人の会話はまるで宇宙人 “最強オールラウンダー”羽生善治が抜いた「伝家の宝刀」を藤井聡太はどう受け止めたか

プロが読み解く第72期ALSOK杯王将戦七番勝負 #5

2023/03/03

将棋好きの会話はまるで宇宙人の会話

 感想戦も40分が過ぎ、駒が動かなくなる。藤井は3日前に東京で行われた朝日杯オープン戦で豊島、渡辺明名人と連戦してきたのだ。疲労も重なっているだろう。さあもう終わりかと思いきや、2人は口頭で感想戦をはじめた。

 しかも現在の盤面ではなく、過去にさかのぼっているじゃないか。会話を文字起こしすると(カッコ内は私の補足)、

羽生「1回金を逃げられても」

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藤井「(64手目)△6五桂に? それは(5七に)ナラズで」

羽生「(7八に玉が)上がって」

藤井「そのほうが堅いんですか? でも(先手玉が)飛車に弱そうで」

羽生「(▲6三竜とせずに)単に(5四に)歩を垂らされて受けにくいかと」

藤井「あー、そうなんですか」

 と。そのうち会話はさらに中盤までさかのぼり、10分近く口頭だけでやりとりする。はたから見ていると宇宙人の会話だ。2人とも、本当に将棋が好きだねえ。

終局後の様子 写真提供:日本将棋連盟

 翌日は将棋連盟で朝から健康診断だったが、棋士との挨拶は「おはよう」ではなく「昨日の将棋はすごかったねえ」。藤森哲也五段は「藤井さんの金をただで取らせる手順って凄すぎませんか?」。窪田義行七段は「良い将棋でしたよね。囲碁将棋プレミアムを一日中ずっと見ながら将棋の勉強や家事をしていました」。

次は矢倉をやる可能性もありえる

 おっ、23歳で王将を獲得した中村修九段の姿が。

「藤井さんの▲5三銀がまずくて、代えて金取りに銀を打って金銀交換してから竜をじっと逃げるというのが正解だったそうだけど、それは指せないですよ。AIでの評価と人間の感覚は違います。

 私は中原先生(中原誠名人・王将・王座/当時)との七番勝負では第1局のときに緊張のせいかお腹を下しちゃって。担当記者に薬をいただいたんですよ(笑)。しかし、藤井さんはまだ20歳なのに羽生さんとのタイトル戦でも物怖じせずとても落ち着いていますよね」

 長岡にもあらためて電話で伺った。

「羽生先生は体調も良さそうですし、とても研究が深く、調子が良いんだなあと思っていました。2勝2敗になったときには驚いていた棋士も多かったですが、私には意外感はありません。次は矢倉をやるか? ええ、普通にありえると思います。ただ、矢倉の中でやりたい形があるかどうかでしょうね。

 私は研修会の幹事をしていまして。今回のタイトル戦では、対局を終えた子がみな携帯中継で見ているんです。普段は藤井ファンの子も、今回ばかりは羽生先生を応援していて、第2局では羽生先生が優勢になると控室で歓声が上がっていました。第5局は私も一緒に中継を見ながら、わいわいと将棋の話をして、楽しかったです(笑)」

明らかに疲労が溜まっているが…

 老若男女、棋力を問わず、年齢を問わず、皆がこのタイトル戦に熱中している。どういう結末を迎えるのか予測できないが、最後まで見届けたい。

 王将戦第5局から5日後の3月2日、静岡で行われたA級順位戦最終局一斉対局にて、私は感想戦での“彼”を観察していた。稲葉陽八段に完勝してプレーオフ進出を決めても笑顔はなく、明らかに疲労が溜まっている。しかし、感想戦でも指し手は正確無比だった。稲葉や観戦記者が、どんな手を示しても瞬時に答えを示す。いくら対局中に読んでいても、普通は思い出すのに時間がかかるはずなのに。この反応の速さと正確さは何なんだ。やっぱりこの男はバケモ……。

 運命の王将戦第6局は、3月11日(土)、佐賀県・大幸園にて開催される。先手番となる羽生は、どんな作戦を温めているのだろうか。

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