倒壊した神社を自分たちで再建
そうした人間関係をベースにすることで、災害時に助け合うことができるのだろうか。
「人となりを知ることで、地震が起きた時に、『あ、あのおばあちゃん、今一人だから見に行かないと』とか、『あのおばあちゃんは、この曜日は息子さんが通っている日だから大丈夫』と考えることができる。それが大事だと思っています。
そういう話をしていると、まさに、文化の話が出てきます。『今までは、この町にはこんなのがあってね』とかですね。結局、何から先に戻ってきたのか。最初に住民が動き出したのは2014年。神社の再建委員会でした。自分たちが集まっていた神社の横に公民館があって、そこでいろんな集まりをしていたんです。その神社が倒壊してしまった。まずはその神社を自分たちで再建しようと動いたのです。
神社ができると、神楽が奉納されて、民俗芸能の田植え踊りの保存会ができました。その後、定期的に集まるようになって、2022年7月には、盆踊りが復活しました。そうした流れがあり、営みがあります」
災害時に役立つ組織とは
人の営みが戻り、神社が再建され、盆踊りが復活する。そうしたコミュニティが戻ったことは、防災組織とどう関係してくるのだろうか。
「祭りをするためには、やぐらを建てなければなりません。その行為自体、災害時にテントを建てるという行為と一緒だと思っています。実は、普段から祭りの時に、『誰々がこれをやって』などと声を掛け合ったり、他者との共同作業が現れています。こういう経験をしていると、災害が起きても、同じようにテントを建てることができるし、どこに何が置いてあるかということも理解できます。
災害時に役立つ組織は、『防災訓練ができます』ではなく、お互いのことを知って、誰がどういう役割を持てるのか。集まったら、どういう行動ができるかです。それは他者への理解が日ごろからあるために可能なのです。お互いの行動パターンを理解し合うことを今はしています」
浪江町では、「帰還困難地域」のうち先行して除染などをしている「特定復興再生拠点区域」(町全体の約3%、約661ヘクタール)の避難指示が、今年の3月31日午前10時に解除される見通しだ。
写真=渋井哲也