3大会ぶりに日本が世界一に輝いたWBC。国内外から有力選手が結集したチームをまとめあげた栗山英樹監督のマネジメント能力の高さが、いま注目されている。

 名将はいったいどのような考えのもと、選手に接しているのか。ここでは、栗山氏が組織づくりの要諦、人としての生き方についてまとめた『栗山ノート』(光文社)の一部を抜粋し、日本ハムファイターズ監督時代のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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人生に絶望するような局面

 逆境を待ち望む人はいないでしょう。ところが、順境ばかりではないのが人生であり、いつ逆境に襲われるのかが分からないのも人生です。

 逆境にさらされると、思考のスイッチはマイナスに入りがちです。「自分には無理だ」とか「うまくいくはずがない」といった考えに、頭が侵食されていきます。

 私の人生は逆境ばかりでした。テスト生でプロ野球選手になれたものの、周りの選手とのレベルの違いに愕然とさせられました。どうにか1軍でプレーできるようになると、原因不明のメニエール病を発症し、前触れなしに襲ってくるめまいに悩まされます。体力的には十分にプレーできたにもかかわらず、29歳で現役を引退したのは、メニエール病が根治できないものだからでした。

©文藝春秋

 人生に絶望するようなそうした局面をくぐり抜けても、逆境に慣れることはありません。ただ、思考のスイッチをプラスに入れることはできるようになりました。

 苦しみに打ちひしがれている自分ではなく、苦しみを乗り越えた自分をイメージできるようになったのです。

 逆境は学びの機会として最高です。苦しみから抜け出すためにアイディアを絞り、トライする。それがダメなら違う方法を考える。それでもなおダメなら、また違うアプローチをする。うまくいかなかったことを教訓として解決方法へ辿り着くプロセスでは、柔軟な発想が身に付いていきます。次にまた逆境が訪れても、前回よりは早く解決方法を導き出せるようになるかもしれない。

 グループで解決したら、同僚や友人同士の絆が深まるでしょう。逆境は歓迎すべき状況ではないけれど、悪いことばかりではないのです。問題を先送りせずに、できるだけ敏速に対処すればなおいい。