1979年作品(129分)
東映
4500円(税抜)
レンタルあり

 時代劇から任侠映画、実録映画と巧みに路線変更しながら映画斜陽期を乗り切った東映だったが、七〇年代後半についに企画は枯渇してしまう。

「次」を見出せない状況下で東映、特に京都撮影所は、なぜ、誰に向かって作ったか理解しがたい、そしてその特徴を言葉で表現するのも難しい、「変な映画」としか呼びようのない作品を連発した。

 今回取り上げる『地獄』は、その最たるものといえる。

ADVERTISEMENT

 物語は一言で表すと「因果応報」。前半では人間たちの現世での罪深い行状の数々が描かれ、後半は彼らが地獄に落ちて無間の責め苦を受ける――という展開になっている。

 それだけなら、昔からの怪談などでもよくある仏教説話みたいな話だと思うところだが、この映画は一味違っている。とにかく、前半と後半のバランスが悪いのである。

 現世で罪を背負う行為に及んだ人間が地獄に落ちて酷い目に遭う――という展開であるため、本来なら地獄のパートが現世に比べて圧倒的に「これはキツイ」と見ている側に思わせる必要がある。が、本作はそれが逆になっている。

 孤児院で育ったヒロインのアキ(原田美枝子)は一人旅の途中で知り合った幸男(林隆三)と恋に落ち、彼の故郷に向かう。そこは実はアキの母が生まれ、死んだ村だった。

 そしてこの村で、アキは大変な目に遭う。アキの母に恨みを抱く幸男の母(岸田今日子)やその義弟(田中邦衛)にはひたすら嫌がらせをされ、アキに片想いする幸男の弟(石橋蓮司)には執拗に迫られ……。可憐なアキが、強烈な面相の面々に追いつめられていく様は、生き地獄にしか見えてこない。悲惨なのはアキだけではない。幸男の妹(栗田ひろみ)はアキに間違われて輪姦された末に窯焼きの窯に飛び込み、自ら焼け死ぬ。

 そんな感じで前半は、人間の宿業の恐ろしさをこれでもかと見せつける濃厚な呪いのドラマとして惹きつけてくる。

 問題は肝心の「地獄」だ。金子信雄の閻魔大王、天本英世の荼吉尼天(だきにてん)、国際プロレスのレスラーたちによる鬼……、地獄の面々の姿がことごとくユーモラスで、どこか楽しげな空間にすら思えてくるのだ。岸田、邦衛、蓮司に加藤嘉まで加わって迫ってくる現世の方が、圧倒的に恐ろしく映る。地獄に落ちて、むしろホッとした気になるほどだった。

 おそらく、前半だけだったら名作として語り継がれる作品になっていたかもしれない。が、本作は題名の示す通り「地獄」ありきの企画。メインはあくまで後半なのだ。そのため、なんとも珍妙な印象を残すことになってしまった。

 そうした過去の迷走ぶりを楽しむのもまた、一興である。