別パーティの被害者は落雷で飛ばされた
越中が被雷した場所の目と鼻の先にある槍ヶ岳では、この日の朝のうちはやはり晴れていたものの、午前11時ごろになって突然大雨が降ってきて、じきに雷も鳴り出した。山頂直下に建つ槍ヶ岳山荘には、通常よりも早い雷雨の襲来に、たくさんの登山者が避難してきた。山荘内では設置していた襲雷警報器のアラームが鳴り響き、スタッフが「槍の穂先(頂上)には登らないように」と登山者に注意を呼び掛けていた。
雷雨のピークが過ぎ、雨が上がって青空がのぞきはじめたのが12時半ごろのこと。しかし、まだ遠雷は聞こえていて、襲雷警報器のアラームも鳴り続けていたので、ほとんどの登山者は小屋の中に留まって様子を見ているような状況だった。
そんななかで、8人編成の1パーティだけが行動を開始し、槍ヶ岳の山頂に向かっていってしまった。これに気づいた山荘のスタッフが、拡声器で「まだ危険だからもどってくるように」と呼び掛けたのだが、やがて姿が見えなくなった。槍ヶ岳山荘の支配人がこう話す。
「こっちを振り向いたように見えた人もいましたが、声が耳に届いていたかどうかはわかりません。そのときにはもうけっこう上のほうに行っていましたから」
それから間もない午後1時10分ごろ、槍ヶ岳の山頂に一発の雷が落ちた。その瞬間をたまたま目撃していた山荘のスタッフは、登山者が落雷で飛ばされるのを確認した。ただちに長野県警に一報を入れたが、現場周辺ではまだ落雷の危険があったため、「我々が直接現場に向かうから、そちらは出動しないように」と釘を刺された。
しばらくすると遭難者の仲間が下りてきたので、山荘のスタッフが状況を聞いたところ、落雷を受けたのは67歳の男性ひとりだけで、被雷直後から意識不明に陥っているとのことだった。
越中がヘリの機内で見たのがその男性であり、のちに搬送先の病院で死亡が確認された。