雷がゴロゴロ鳴り出し…
16日の夜9時、9人のメンバーは柏駅に集合し、電車で竹橋駅へ出て、高速夜行バスの毎日あるぺん号で登山口の中房温泉に向かった。中房温泉に到着したのは17日の朝6時ごろ。天気は晴れで、若干雲があった。
駐車場にはすでに数台のバスと自家用車が停まっていて、出発準備をする登山者で賑わっていた。9人も各自、身支度を整え、朝食をとって6時35分に行動を開始した。
中房温泉から燕岳へと続く合戦(かっせん)尾根は、標高差約1200メートルで、剱(つるぎ)岳の早月(はやつき)尾根、烏帽子(えぼし)岳のブナ立尾根とともに「北アルプス三大急登」と呼ばれている。
しかし、登りの標準コースタイムは約4時間半とさほど長くなく、危険箇所もほとんどないため、北アルプスの入門コースとして人気が高い。第1ベンチ(休憩ポイント)、第2ベンチ、富士見ベンチを経て、9人が合戦小屋に着いたのが10時45分。ペースは若干遅めだった。
合戦小屋で名物のスイカを食べて喉を潤してから再び歩きはじめ、燕山荘には12時前に到着した。ここで昼食をとったのち、荷物を置いて身軽な恰好で燕岳を往復した。
燕岳の山頂までは片道30分ほどの距離だが、小屋を出てすぐ、雨がぽつぽつと落ちてきた。この日の宿泊地は、燕山荘からさらに3時間ほど先にある山小屋・大天荘(だいてんそう)。先はまだ長いので、頂上を踏んで早々に燕山荘にもどり、再びザックを背負って南へ延びる稜線をたどりはじめた。
この時点で時刻は午後1時40分。コースタイムどおりに歩いても、大天荘に着くのは夕方5時ごろになってしまいそうなので、健脚の越中がひとり先を急ぎ、一行の到着が遅くなることを小屋に知らせることにした。越中が振り返ってこう言う。
「1日目の行程がちょっと長すぎたかもしれませんね。燕岳も往復してますし」
稜線をたどっている途中から雷がゴロゴロ鳴り出し、雨も本格的に降り出した。越中は雨に濡れる前に大天荘に逃げ込めたが、ほかのメンバーが到着したのはおよそ1時間後の午後5時15分。みんな雨具を着ていたがずぶ濡れとなっており、寒さを訴える者もいた。
交通機関に夜行バスを利用したため、前夜はみな充分な睡眠がとれなかった。そのうえ、行動時間は11時間近くに及んだ。それでも体調を崩す者はなく、無事、一日を終えることができた。
突然の天候悪化、そして事故発生
翌18日は朝4時前に起床し、4時35分にヘッドランプを点けて小屋を出発した。この日は槍ヶ岳直下の槍ヶ岳山荘まで、約7時間の行程である。
40分ほど歩いて山小屋・大天井ヒュッテに着いたところで、外のテーブルで朝食のお弁当を食べた。天気はよく、6時25分にビックリ平に到着すると突然視界が開け、槍ヶ岳からはるか剱岳に連なる北アルプスの雄大な峰々が一望できた。
ヒュッテ西岳に到着したのが8時半。この先、水俣乗越(みなまたのっこし)を越えてヒュッテ大槍までは、梯子(はしご)やクサリ場が次々と現れる険しい尾根道が続く。ほかのパーティや単独行の登山者と言葉を交わしながら抜きつ抜かれつしているうちに、進行方向に見えていた槍ヶ岳が少しずつ雲間に見え隠れしはじめた。