文春オンライン

山はおそろしい

「これはヤバい」沢登り中にハチに刺されて40分間も意識不明…38歳の男性登山者が体験した“ハチ毒”の恐怖

「これはヤバい」沢登り中にハチに刺されて40分間も意識不明…38歳の男性登山者が体験した“ハチ毒”の恐怖

『山はおそろしい 必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』より #8

2023/05/06
note

事故体験者が語る教訓

 病院では応急処置と点滴を受け、診察を終えた。診察では、自覚症状のあった右頰だけでなく、右耳下と首のうしろに虫刺されの跡があるのが確認されたが、原因の特定はできなかった。だが、後日ハチ毒の抗体検査を受けた結果、陽性だったことが判明したので、ハチ毒によるアナフィラキシーショックだった可能性が高い。

写真はイメージ ©iStock.com

 この事故の教訓として、石沢は次の点を挙げている。

・沢登りであり、転滑落やルートミスによる事故には充分な注意を払っていたが、虫除け対策や有毒植物などに関する注意を怠っていた。入渓の際にはこれらのリスクマネジメントも必要となる。

ADVERTISEMENT

・緊急時の対応や搬送を考えると、3人以上のパーティ編成が望ましい。

・通信手段として携帯電話が威力を発揮した。ただし、事故現場では電波が通じないキャリアもあった。パーティを分断しての事故対応を想定すると、無線機についても複数台の携行が望ましい。

・GPSにより現在地を正確に伝達できたことが、円滑な救出活動に繫がった。とくに沢では、位置情報把握手段として有効であることが確認された。

「初回はアナフィラキシーにならない」は誤解

 日本には4000種以上のハチが生息しているといわれ、人を刺すハチとしてはスズメバチ類、アシナガバチ類、ミツバチ類、マルハナバチ類、ベッコウバチ類などが知られている。いずれにしても刺すのは雌だけで、これは毒針が卵を産むための産卵管が進化したものであることによる。

 ハチの種類によって程度は違ってくるが、通常、ハチに刺されると激しい痛みがあり、刺された箇所は熱を持って赤く腫れ上がる。しかし、ハチ毒に対してアレルギーを持っている人は、それだけではすまない。刺傷後数分~十数分の短時間で、発汗、発熱、蕁麻疹、頭痛、腹痛、嘔吐、下痢、全身浮腫(むくみ)、チアノーゼ(唇や指先などの皮膚・粘膜が暗紫色に変化した状態)などの症状が現れることがある。

 これがアナフィラキシー(特異過敏症)で、血圧の低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックと呼ぶ。アナフィラキシーは2度目以降の刺傷のときに発症しやすいが、初めて刺された人が発症することもある。

 先のケースでは、当事者はアナフィラキシーショックを引き起こして意識を失ったものの、幸い大事には至らずにすんだ。しかし、最悪の場合、呼吸困難や気道狭窄などを発症させて命を落としてしまうこともある。

「これはヤバい」沢登り中にハチに刺されて40分間も意識不明…38歳の男性登山者が体験した“ハチ毒”の恐怖

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー