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〈『HOSONO HOUSE』に入っている曲は全部好きなんですけど、特に「恋は桃色」。4拍目にドラムが“ンパーン”って入ってくるところが好きで、今回のようにピアノとギターだけでやっても、頭の中ではいつも林立夫の“ンパーン”が鳴ってる(笑)〉(*24)

 ギターをつま弾きながら、優しいメロディを歌う細野の歌声に合わせて、坂本は背中を少し丸めた格好でピアノを弾いた。ふたりのあいだにはかつてない穏やかな時間が流れていた。

細野と坂本は固く握手し、坂本は高橋の頬にキスをした

©文藝春秋

「恋は桃色」の演奏を終え、ふたりは話した。

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細野 伴奏ありがとう。

坂本 ん?

細野 伴奏うまいよね。

坂本 伴奏好きなんですよ。

細野 今度頼んでいいかな? すごく頼みにくいんだけど。

坂本 いや、頼みやすい人間なんですよ、実は(笑)。

 ライブの終盤ではステージに高橋が呼び込まれ、小山田圭吾らゲスト・ミュージシャンとともに「ライディーン」を演奏した。3人が共演する場において、坂本がピアノで「ライディーン」を弾くのは、このときが最初で最後になった。

©文藝春秋

 演奏が終わると、細野と坂本は固く握手し、互いに肩を抱き合った。そしてふたりは高橋と握手し、坂本は高橋の頬にキスをした。

 3人は聴衆に向かっておじぎをし、舞台袖に下がっていった。

 おそらくアンコールがあるのだろう。いや、アンコールがなくても構わない。

 あとに残された人たちは、3人との出会いに感謝して、いつまでも拍手を続けた。

引用
*17 『パイドパイパー・デイズ』リットーミュージック、2016年
*18 『大滝詠一 Talks About Niagara』ミュージック・マガジン、2014年
*19 『NIAGARA TRIANGLE Vol.1 -30th Anniversary Edition』ソニーミュージック、2006年
*20 『大瀧詠一 Writing & Talking』白夜書房、2015年
*21 『Ryuichi Sakamoto Year Book 1971-1979』commmons、2016年
*22 『細野観光1969-2021』朝日新聞出版、2021年
*23 未発表
*24 『細野晴臣×坂本龍一 at EX THEATER ROPPONGI 2013.12.21』ビクターエンタテインメント、2015年

細野晴臣と彼らの時代

雄介, 門間

文藝春秋

2020年12月17日 発売

 

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。