――わはは(笑)。
遠山 負けたほうが話題になってみなさんの記憶に残ると。それまでは勝って記憶に残っていたのに、今は負けて記憶に残ると。
深浦 そういえば羽生七冠のときもそうでしたね。
敗者復活戦って持ち時間1時間だっけ?となった対局
――名局賞には他の対局にもたくさん投票をいただきました。得票で3位にまで入らなかったもののなかから、いくつかコメントご紹介します。まずは第48期棋王戦コナミグループ杯挑戦者決定トーナメント、敗者復活戦1回戦の藤井聡太竜王-伊藤匠五段戦です。
藤井竜王が珍しく入玉を狙った一局で、最後にトライを決めて勝ったのが非常に印象に残ってます。後日、佐藤天彦九段が、あれは藤井君の趣味の研究も入ってるって言ってたのが、面白かった。伊藤匠五段も、終盤は最善手&勝負手連発で藤井玉に迫ったが、藤井竜王が一枚上だったと言う印象。個人的には名局でした。
(50代・男性)
――遠山先生、この対局は覚えておられますか?
遠山 私、たまたまこの日が対局日でして。それでこの二人の対局があることを知っていて、もちろん中継などは見られないから、10時40分くらいにふらっと対局室に見に行ったんですよ。そしたらもうとんでもない局面になっていて、敗者復活戦って持ち時間1時間だっけ? となりました(笑)。
壇上で涙した出口若武六段の姿に客席ももらい泣き
――続いても同じく棋王戦から挑戦者決定トーナメントの準決勝、藤井聡太竜王と佐藤天彦九段の対局です。
バラの花を持って現れた天彦九段。(マスク事件の直後の対局で、ファンのみなさんから心配されていました)リードされ、さらに秒読みの苦しい中、連続で桂馬を放った手をきっかけに盛り返し、ついに逆転! 天彦先生の粘りと指しまわし、そして精神力が素晴らしかったです!
(50代・女性)
――バラの花束をもった天彦先生が対局室に登場という、昨年度の名シーンがあった対局ですね。
深浦 自分はこの日、研究会で。昼食休憩にTwitterを覗いたら「バラを持った貴族」みたいなツイートばかりあって、どういうことかなと(笑)。それでツイートを辿っていくと、そういうことかとわかりました。あとバラを差し上げたご本人も、まさか対局室に持っていくとは思わなかったと書いておられましたね。
遠山 そりゃそうですよね。
――でも、それが似合うのがさすがという(笑)。あと票が集まっていたのが、叡王戦の第3局の藤井聡太叡王と出口若武六段の対局です。
終盤、先に1分将棋になった出口若武六段が6五に放った角が絶妙手で、藤井聡太叡王も持ち時間を使い切り、残り58秒まで読まれて慌てて香車をつかみ、大盤解説会場から悲鳴が上がった。出口六段が優位に立ち、竜取りに角を打てば有望だったところ、銀を打った手が敗着となり、即座に後手玉の寄せを読み切った藤井叡王が切れ味鋭く勝ちきった劇的な幕切れ。大盤解説会場で、「最後ちょっと勝ちがあった気がしていたので、ここで終わってしまうのはとても悔しい」とうつむいた出口六段が、会場の大きな拍手にこらえきれずに涙が止まらなくなり、客席ももらい泣きし、解説の高見泰地七段も涙をこらえてフォローした。若武者のほろ苦いタイトル初挑戦に感情を揺さぶられた。
(40代・女性)