1ページ目から読む
2/7ページ目

――もうひとつご紹介します。

 もしかすると初めて見たかもしれない、藤井竜王の「詰み逃し」、そして逆に詰まされて投了。最終盤の数手は評価値が乱高下し、サッカーやラグビーのようなカウンターに次ぐカウンターのような超スリリングな展開に「ひえー!!」が止まらなかった。そして、自らの負けを悟った藤井竜王の、首がもげるのではないかというほどの大きなガックリ。強靭なメンタルと超精密な読み、そして驚異的な終盤力誇る藤井竜王でもこういうことは起きるのだな、という将棋の恐ろしさを垣間見たため。また、その後の渡辺明棋王の「正直、勝った気はしないけど、まぁでも負けるよりはいい」というツイートも味わい深い。

(30代・男性)

遠山 ABEMAで見ていましたけれど、あれほど藤井さんの首がガクンとなったのは、NHK杯で深浦さんに負けたとき以来じゃないですか(笑)。

深浦 いやあ。

ADVERTISEMENT

感想戦ではくったくなく読み筋を披露

――昨年度は、その話で盛り上がりましたね。

遠山 渡辺棋王は、自玉の詰みに気づいてなくて、なんで藤井さんががっかりしているのかわからなかったというのも、面白いエピソードでしたね。

深浦 ただメディアの方は最後の詰み逃しのところを中心に切り取られるんですけど、一局を通して見ると中盤で玉の接近戦が見られるあまり例のない面白い将棋でして。そこを切り抜けるのは、お互い大変なんですよね。

――中盤戦にすごく神経を使っている。

深浦 そうですね。そして渡辺さんが、必勝に近い形で終盤戦に入るのですが、そこからの藤井さんの追い上げもすごくって。そんないろんな要素があっての詰み逃しなので、そこばかりがフォーカスされるのは、少しきついなと思っていました。

――棋士の立場としては。

深浦 藤井さんじゃないとあそこまで追い込めないですし、渡辺さんに運があったなと。感想戦では、くったくなく読み筋を披露して、たまに笑ったりして、とても美しい光景で、素晴らしい対局だったと思います。

棋王戦第3局で藤井聡太五冠を破り、連敗を止めた渡辺明棋王[代表撮影] ©時事通信社

読みがすごいだけでなく、すべて鮮明に覚えているのがエグい

――藤井竜王の感想戦は、やっぱりすごいんですか。渡辺名人も「感想戦がエグい」とブログで書いておられましたが。

深浦 そうですね(笑)。今、考えたかのようにスススって出る反応がすごいですよね。一旦止まって「どうだったかな」と考える棋士がほとんどだと思うんです。でも藤井さん、即座に出てくるのがエグいです(笑)。

遠山 読みがすごいだけでなく、すべて鮮明に覚えているのがエグいですよね。この対局はABEMAの解説もよくて、最後に逃した詰みは解説者にもすぐにはわからないくらい難しいんだって伝わったと思います。

――素晴らしい解説もあって、みなさんの心に残ったんでしょうね。

遠山 私は、この対局の翌日、たまたま将棋会館で渡辺さんにお会いして、この将棋の話を少ししたんです。渡辺さんは中盤あたりでは、もういただいた将棋だと思っていたけど、ずいぶん抵抗してくるなと思っていたら、AIで調べると、それほど決まっていないことがわかったと。AIで調べて、あとから凄さがわかってくるというのもあるんだろうなと思いました。