1986年(126分)/松竹/3080円(税込)

 仕事場では「昼行燈」と同僚や上司から蔑まれ、家に帰れば「ムコ殿」と姑に名前すら呼んでもらえずイビられる。そんな一見うだつの上がらない中年男が、裏に回れば凄腕の殺し屋として大活躍。それが、藤田まことの演じてきた同心・中村主水(もんど)である。

 長らく「必殺」の代名詞であり続けた主水がテレビシリーズ『必殺仕置人』で誕生して、今年で五十年になる。そこで今回は「必殺」シリーズ劇場版の第三作『必殺!Ⅲ 裏か表か』を取り上げたい。

 劇場版作品はテレビと違うことをやろうという意識が強すぎるためか異色作が多く、主水の印象が薄くなりがちだった。だが本作は、監督=工藤栄一、脚本=野上龍雄という、テレビシリーズで特にハードボイルド色の強い傑作の数々を撮ってきた座組が担う。それだけに、主水のドラマや強敵との闘いを堪能できる。

ADVERTISEMENT

 対峙する相手は、江戸の金を一手に扱う両替商たちの組合だ。組合は強請(ゆす)ってきた同心(川谷拓三)を暗殺、そのことに勘付いて目障りになってきた主水を罠にかける。

 物語中盤は、追いつめられる主水の様が徹底的に掘り下げられていく。若い女を近づかせてハニートラップを仕掛けると、衆人環視の中で彼女を自殺に見せかけて殺害。その責任を主水に押しつけ、彼の社会的信用を失墜させる。

 それだけでは終わらない。奉行所の上層部は主水に切腹を促し、死ぬ気がないと分かると、捕り物の先陣を命じる。そして援軍は出さずに見捨て、殉職させようとするのだ。

 追い込まれる主水。心身ともに傷つき、片足を引きずりながら夜道を歩く様には哀愁が漂う。だが、ここからが主水の本領発揮だった。

「生憎だが、俺はこんなことじゃ死なねえよ」

 そう不敵に笑うと、反撃に転じていく。まずは両替商の桝屋(成田三樹夫)を捕らえて強烈な拷問。止めようとする上役(山内としお)には「テメエは黙ってろ!」と声を荒げる。表の顔で感情を露わにする主水はテレビシリーズでもそう見られるものではないので、その怒りがいかに凄まじいかが伝わってきた。

 それでも組合側は狡猾で、さらなる罠により主水は捕らえられてしまう。そしていよいよ、「これぞ工藤栄一」というクライマックスへ。

 島に築かれた、砦のようなアジトに連れ込まれる主水。助けにくる仲間たち。壮絶なアクションが繰り広げられ、面々は次々と命を落とす。生き残った主水は幾多の屍を越え、敵を容赦なく斬り伏せていく。その凄み、圧巻だった。

 なぜこの男が長く愛され続けてきたのか。その魅力がよく理解できる作品である。