1985年(122分)/松竹/3080円(税込)

「必殺」は一九七二年に第一作『必殺仕掛人』がテレビ放送され、以降はシリーズとして長く愛されていった。

 ただ、その間に内容は大きく変わっている。大まかに言えば、七〇年代はハードなドラマ展開だったのに対して、八〇年代になるとコミカルさを前面に出すようになったのだ。UFOが飛ぶ。エリマキトカゲが走る。スケボーに乗る。キン肉マンが登場する。――といった具合に、放送当時の流行を次々と取り込んでいく。

 映画『必殺! ブラウン館の怪物たち』は、そんな時期の「必殺」の「何でもあり」感を味わえる内容といえる。

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 主人公はお馴染みの同心・中村主水(もんど/藤田まこと)だ。

 今回、彼は京都に出張し、謎の屋敷に潜入するよう幕府に命じられてしまう。そして、新選組、公家、異人などが入り乱れる、幕末の激動へと巻き込まれていく――。

 といっても、基本的には気楽に肩の力を抜いて楽しめる作品だ。塩沢とき、兵藤ゆき、高田純次といった当時バラエティ番組で人気の面々に加え、土方歳三に西川のりお、沖田総司に明石家さんま。お笑い色の強い面々が顔を揃え、何やら楽しげな感じが漂う。

 ただ、実は冒頭はスリリングだったりもする。仕事人チームが謎の刺客に襲われる場面が、雷鳴が鳴り響く大雨の中を必殺シリーズ特有の陰影の強い映像で映し出され、ハードボイルドな迫力に満ちているのだ。主水に非情な命令を下す老中を演じる平幹二朗も、重く引き締める。

 だが、そんな平に対して忍者を演じる柏原芳恵が「忍者の面目にかけまして、必ず」と素っ頓狂な高い声で答えるところから、一気に緩む。その後に主水が潜入する謎の屋敷の住人たちが高田、兵藤、塩沢。三人ともふざけた芝居をしているので、序盤の緊迫感は完全に消え去った。

 陰謀を企む異人たちを倒すべく神戸の洋館に乗り込む終盤は、さらに荒唐無稽だ。

 ホッケーマスクを被り、自転車をこぎながら襲いかかる異人軍団。その自転車から放たれる花火のような銃砲。対する仕事人チームも、負けてはいない。特に目覚ましいのが政(村上弘明)で、時に噴水から飛び出したり、時にハンググライダーに乗ったりしながら敵を倒していくのだ。他にも、順之助(ひかる一平)と加代(鮎川いずみ)が竜(京本政樹)の組紐に引っ張られてプールを自転車に乗ったまま越えたり――と、ひたすら緩い空気の中、奇想天外な闘いが繰り広げられた。

 それでも、さんまの殺陣は様になっているし、笑福亭鶴瓶は飄々とした凄みをみせるなど、悪ふざけだけでない魅力もあるので、侮れない。