テレビアニメ第四期が放送された『ゴールデンカムイ』は、大英博物館の漫画展で主人公の一人であるアシㇼパがキービジュアルに採用され、国際的にも注目を集めたことは記憶に新しい。
アイヌ文化の認知度向上に貢献したことは好意的に捉えられていることが多いが、過激な暴力や性表現をも含んでおり評価はさまざまである。
同作は男性登場人物間に性的・非性的な強い関係性が読み込まれ、BL的に受容されているが、しかし学生たちと話をしていると、たとえばコミック版の21巻に登場する男性登場人物同士が精液を飛ばしあって戦うエピソードなどには忌避感を感じると言う声も聞こえる。
しかし、こういった個別の性的表現に対して簡単に「これはよい、あれはだめ」と言えるほど単純な話ではない。
筆者は主にポピュラー文化を対象とする表象文化論研究者だ。
今月刊行予定の学会誌『表象』に掲載される拙論「刺青に突き立てられる刃:『ゴールデンカムイ』における皮膚上の記号作用とギャグの機能」をもとに、今回は『ゴールデンカムイ』という作品の中で性的表現が作品全体の構造とどのように関わるかを考えてみよう。(全2回の1回目/続きを読む)
『ゴールデンカムイ』における「刺青」の意味
まずは、『ゴールデンカムイ』の物語を動かす仕掛けである暗号の刺青に注目しよう。
タイトルに「ゴールデン」とあるように、同作の登場人物たちがアイヌの隠した黄金を求めて争うことで物語は動きだす。黄金の隠し場所は網走監獄を脱走した囚人たちに暗号として施されており、登場人物たちはこの刺青を持った囚人たちを探すことになる。
刺青は囚人たちの背中と上腕に施されているが、腹側を見ると体の正中線に沿って不整合部分がある。この不整合は熊の毛皮を剥ぎ取る際に刃物を入れる線に酷似しており、登場人物たちはこの不整合を「囚人を殺して皮を剥ぎ取れ」というメッセージだと解釈した。
黄金を求める者たちがこの腹側の継ぎ目に刃物を突き立てるわけだが、作品中に溢れる性的表現と併せて考えると、この継ぎ目は女性器の隠喩であり、無徴の男性身体を有徴化する記号であると解釈することができる。