「こまつ座出演も、井上ひさしさん脚本の舞台も初めての経験です。僕に務まるのか!? と不安もありますが、とにかく全力で取り組んでいます。稽古中は、毎日、台本に書かれた言葉を通じて、井上さんからメッセージというか、演技指導を受けていました。ものすごいパワーなんですよ。あとセリフ量も! でもその分、とてもやりがいのある役です」

 そう語るのは、『相棒』『コード・ブルー』などの人気ドラマでもおなじみの俳優、浅利陽介さん。まもなく幕が開く舞台『闇に咲く花』に出演する。

浅利陽介さん

 時は1947年。神主の牛木公麿は、5人の戦争未亡人たちと、日々を生き抜くために闇の売り買いに奔走していた。そこへ、戦死したと思われた一人息子・健太郎がひょっこり帰還。その少し前に復員していた幼なじみの稲垣善治も大喜びで彼を迎える。2人は、12年間にわたり野球でバッテリーを組む仲だ。しかし喜びも束の間、GHQから戦犯容疑をかけられた健太郎は記憶障害に陥ってしまう。精神科医でもある稲垣は、どうにかして彼の記憶を取り戻そうとするが――。

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 本作の初演は1987年で、今回は7回目、11年ぶりの再演だ。演出は初演から引き続き栗山民也さんが手掛け、公麿役は山西惇さん、健太郎役は松下洸平さん、そして稲垣を浅利さんが演じる。

「稲垣は野球部のキャプテンで、健太郎の女房役。元軍人でもあり医者でもある。世話焼きなところもあるし、けっこう頑固。一方、愛されキャラでもある。いろいろな顔を持っていて、求められる役回りも、シーンごとに少しずつ違うんです。それを掴むのに、少し苦労はしていますね」

 そんな複雑な役作りの一環として、ほぼ初共演の松下さんと、ある策を講じたという。

「2人で演じる山場の一つに、チームメイト全員の名前を呼びあげて過去を振り返るシーンがあるんです。そのイメージを、より強く共有するにはどうしたらいいでしょうか? って、山西さんに相談したら、『キャスティングしたらええやろ』と即答。さすがは山西さん、ナイスアイデアです。だから僕たちの脳内では、実際には舞台に登場しないチームメイト全員の配役が決まっているんです。鑑賞の邪魔になるので公表はしませんが(笑)」

 戦後復興ままならぬ、ひと夏の出来事を描く舞台。ほかに印象的なシーンを尋ねると。

「個人的に響いたのは公麿が説く“神道はゴムマリ”論です。なんだかおかしなことを、しかも真面目な顔で言うから、つい笑っちゃうんですが……それでいて真をついているような。そういうシーンが多いんですよね。作品のメインテーマは日本人の戦争責任や宗教との関わりなので、決して軽くはありません。でも、笑えて泣けて、暗くもない。僕は、ある種、ドキュメンタリー的なお話だと捉えています。いろいろな人が、いろいろな思いや事情を抱えながら、必死で生きた時代。その雰囲気を少しでも伝えられたら」

あさりようすけ/1987年、東京都生まれ。4歳でCMデビュー。以来、数々の作品で活躍。2001年のドラマ『キッズ・ウォー3』で注目を浴び、その後も『相棒』シリーズ、『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』シリーズなどの人気作に出演。10年、映画『手のひらの幸せ』で映画初主演。舞台にも数多く出演している。

INFORMATION

こまつ座公演『闇に咲く花』
8月4日~30日、東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA。その後、愛知、大阪、福岡で公演予定
http://www.komatsuza.co.jp/