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 再び対局室に戻って感想戦が行われた。写真撮影の取材陣が多すぎるため、時間制限を設け、ローテーションが組まれていた。だが、この結末では感想戦がすぐ終わってしまうかもしれない。そのため将棋連盟の職員は、感想戦を盛り上げてくださいと、立会人の淡路仁茂九段と観戦記担当の池田将之さんに頼んでいた。しかし、それは杞憂に終わった。

 永瀬は少し前まで、この部屋であれだけの悔しさを見せたあとだというのに、時折笑みを浮かべつつ楽しそうに意見を言う。藤井も笑顔になり、持ち駒の歩をくるんくるんと回す。いつもの2人の感想戦だ。淡路も楽しそうに見守っている。

感想戦の様子を見守る立会人の仁茂九段(左)

最後に再び深くお辞儀をし、王座戦が終幕

 そしてあの104手目、藤井が△5七銀に代えて△4六飛を示した。えっ、その手を読んでいたの? 私は思わず盤面をのぞき込んだ。AIは有力と示していたが、「この手は指せないよねえ」と控室では話していた。またABEMA中継で解説の木村一基九段も「△4六飛という手が(AIの候補手に)出ていますが、まず浮かびませんけどね」と解説していた。しかし永瀬は驚くこともなく、「見えていないですね。そんな手があるんですか? へええ」と、笑った。そうか、永瀬はこういうことを言われ慣れているのね。

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 藤井は「人間には浮かばない」と皆が言っていた△4六飛を読んでいた。だが一分将棋で読みきれず、指すことはできなかった。つまり永瀬のタイムマネジメントはうまくいっていたのだ。

 

 さてさて時間は過ぎていき、口頭での感想戦も終わらない。長引かせるどころか、逆に困ったことになった。というのも、この後に藤井の記者会見が控えているからだ。淡路が、渋々といった表情で「もうそろそろ……」。そうそう、2人の感想戦の終わりはこの言葉でないと。

 両者深々と頭を下げた後、前王座の永瀬が最後の務めとして駒をしまう。そして下座の藤井が駒を片付けるのを待っている。藤井が下座に座る姿を見る機会は、少なくとも1年以上はない。最後に再び深くお辞儀をし、王座戦が終幕した。

藤井も永瀬と同じ筋を読んでいた

 藤井の記者会見を見届け、控室に戻ると、解説会を終えた棋士達が休んでいた。