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 今回、ハマスがイスラエルを攻撃したのは、10月7日。50年前、アラブが奇襲攻撃をしたのが、10月6日だった。共にユダヤ教の祭日『ヨム・キプール』で、何かのメッセージを込めたようにも映る。

「たかが自由主義経済のために世界全体を戦火に巻き込んでいいはずがない」

 そして今、中東の米軍拠点やイスラエルに、イランが支援する組織の攻撃が相次ぐ。米国は、空母打撃群を送り、現地の戦力を増強している。バイデン大統領も、イランの最高指導者ハメネイ師に、警告のメッセージを送った。

 これに対し、イランのライシ大統領は、米国のイスラエル支援を批判、エジプトやカタールなどアラブも、ガザ地区攻撃を、「国際法違反」と非難した。そして、戦争はえてして、些細な誤解や計算ミスで始まる。

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 むろん、50年前と今では、国際情勢やエネルギー事情も変わった。だが、米国、イスラエルとイランの緊張が高まれば、話は違う。油田爆破はなくても、原油輸送の要衝、ホルムズ海峡が封鎖されるかも。そうなると、石油危機の再来だ。

 そして、それは、「正義VS悪」という単純な構図ではない。かつて危機を警告した田中清玄は、晩年、こんな言葉を残していた。

「一体自由主義・正義とは何なのだ。米英オランダの石油メジャー会社はアラビア半島、湾岸、そしてペルシア湾内の石油利権をサウジアラビアのサウド家、クウェートのサバハ家などアラブの王家と堅く組んで独占し、いまアラブの大国を支配している。アメリカの要求していることは、結局そうした自己の独占支配体制を維持したいというだけではないのか」

「アメリカ人は自由主義経済を守るためとか、いろいろな『理念』を口にしているが、たかが自由主義経済のために世界全体を戦火に巻き込んでいいはずがない」

 半世紀前の悪夢のシナリオが、現実にならない保証は、どこにもないのだ。

田中清玄 二十世紀を駆け抜けた快男児

徳本 栄一郎

文藝春秋

2022年8月26日 発売