とりわけ日本人は睡眠の「質」を考える以前に、睡眠の絶対的な「量」が足りていない。じつは世界で最も眠っていない国民は日本人で、その中でも東京の住民は最低睡眠時間だという。
「働き世代の日本人は圧倒的に睡眠不足であり、その睡眠の量は通勤時間とも相関しています。通勤時間が片道1時間のびると、平均睡眠時間は1時間、片道分だけ減る。都市部ではとくにその傾向にあります。そして、眠る時間があったとしても、眠らない人も多い。私に言わせれば、それは『覚醒』への依存症のようにさえ見えます。しかし、眠る間も惜しんで働くのは、経済的な意味でも、健康を守る上でも、ナンセンスです」
GDPと睡眠時間の関係性
睡眠時間は国の経済力とも関わってくる。世界の平均睡眠時間のデータによると、国民1人当たりのGDPと睡眠時間との間には強い正の相関関係があるが、日本は国民1人当たりのGDPが同程度であるニュージーランドやフランスと比べても、睡眠時間が約1時間少ない。日本の睡眠不足による経済損失は3%と試算されている。つまり、日本人みなが睡眠を改善すれば、それだけでGDPが3%上がることになる。
そして、この「1時間の差」は経済的なものだけではなく、寿命とも関連している。
睡眠時間と総死亡率に相関関係があることは昔からよく知られている。7時間睡眠が最も死亡率が低く、睡眠時間が減っていくにつれ死亡率が高くなる。古くはラットを眠らないようにした実験では、眠らなければ10日から2週間ほどで死に至った。それほどまでに眠ることは生命維持に必要なものである。
一方で、睡眠時間が長くなりすぎても死亡率が高くなるが、「寝すぎそのものが問題なのではない」と柳沢機構長は言う。
「そもそも人は必要以上に長く眠れません。長時間睡眠の人の寿命が短いのは、それだけ眠らなければならない何らかの身体の問題、たとえば睡眠時無呼吸症候群などを抱えているからだと考えられます」
睡眠不足で加齢は加速する
さらに寿命は睡眠の「質」とも関係する。
広く知られるように、人の睡眠のサイクルは「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」という質的に異なる二つの睡眠状態で構成されている。睡眠はノンレム睡眠から始まって、やがてレム睡眠に移行し、眠っている間は両者が繰り返される。ノンレム睡眠には深さが3段階あり、一番深い段階を深睡眠という。