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トレードマークのセーラー服が逆説的に伝えるもの

 ブレイクしたあとも、初期からのコンセプトにもスタイルにもブレはないが、作品やパフォーマンスは確実にバージョンアップされている。もともと楽曲の幅はかなり広い。前出の「毒花」や「オトナブルー」のような昭和歌謡曲調のものばかりでなく、ピアノトリオ・H ZETTRIOとのコラボレーション「恋の遮断機 feat.H ZETTRIO」はジャジーなナンバーだったし、今年10月にリリースされた新曲「Tokyo Calling」ではラップを見事に歌いこなしている。8月リリースの「マ人間」でのSUZUKAの渋いボーカルも印象深い。

 この懐の広さというか、どんな音楽でも飲み込んでやるという貪欲さは、今後ものびしろを大いに感じさせる。本人たちも最近のインタビューで、アイデアの根幹はどこにあるのかとの問いに対し、《それぞれの私生活でインスパイアを受けたものを落とし込むことがいっぱいあるんです。音楽にしろ、撮影の場所にしろ、自分たちのアイデアとほかの材料がひとつ混ざっただけで、化学反応を起こせるのが私たちだと思うので。その材料はどんどん増えていく一方で、アイデアが浮かばなくなることはないんじゃないかなと思います》(KANON)と答えていた(『Quick Japan』Vol.166、2023年4月)。

 トレードマークであるセーラー服も、昭和歌謡調の楽曲とマッチして懐かしさを感じさせる一方で、あえて風紀委員風にきっちり装うことで、コンセプトである「個性と自由ではみ出していこうぜ」というメッセージを逆説的に伝えているようでもあり、絶妙の効果をもたらしている。

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「逆輸入」の系譜

 海外からの“逆輸入”という形での大ブレイクは、古くはYMOに始まり、ひとつのパターンとなっている。スタイルと音楽性のギャップから世界で受け入れられたというのも、BABYMETAL(アイドル×ヘビーメタル)という先例がある。だが、その手のパターンにのっとったからといって絶対に売れるわけでもない。彼女たちが海外でもがっちり観衆の心をつかんだのは、やはり実力あってこそ。今年のブレイクは、デビューから8年のあいだに培ってきたものがついに花開いたということだろう。ちょっぴり毒を含んだこの花はきっと、さらなる大輪になると信じている。