あいみょんにとって、2023年は「国民的アーティスト」としての存在感を盤石なものにした1年だった。紅白歌合戦ではNHK連続テレビ小説『らんまん』の主題歌「愛の花」を披露。12月に公開された映画『窓ぎわのトットちゃん』主題歌の「あのね」も大きな反響を呼んでいる。
なぜあいみょんはここまで老若男女に愛される存在になったのか?
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「どこか懐かしさを感じる」ルーツは吉田拓郎、浜田省吾
兵庫県西宮市出身、現在28歳のあいみょん。その原点は、6人きょうだいの大家族で過ごした子供時代にある。
音響関係の仕事をしていた父親の影響で、幼い頃からさまざまな音楽に親しんできた。父親の部屋にあった沢山のCDを聴きあさり、中高生の頃から吉田拓郎や浜田省吾などに親しんでいた。尾崎豊やスピッツの曲を弾き語りでカバーしたりもしていた。
あいみょんの曲を聴いて「どこか懐かしさを感じる」という人は多いだろう。せわしない展開やダンサブルな曲調が多い昨今のJ-POPの趨勢の中、あいみょんの曲は歌のメロディと言葉がまっすぐに伝わってくるところに魅力がある。だからこそ、同世代や若い世代だけでなく、40代、50代以上にもファン層が広がっている。
その理由には、こうしたあいみょん自身の音楽的なルーツがあると言えるだろう。70年代のフォーク、80年代の歌謡曲、90年代のJ-POPと、それぞれの時代のエッセンスを吸収した原体験が、幅広い世代に耳馴染みのいい音楽性の由来になったわけである。
ただ、その魅力に世間が気付くには、しばらく時間がかかった。
インディーズデビュー曲は放送自粛も
音楽活動を始めたのは18歳の頃。YouTubeに公開していた動画をきっかけに所属事務所から声がかかり、大阪・梅田で弾き語りの路上ライブを始めた。その頃によく歌っていたのが、2015年にリリースしたインディーズデビュー曲「貴方解剖純愛歌~死ね~」だ。この曲は歌詞の過激さゆえに当時テレビやラジオでは放送自粛となったという。
2016年のメジャーデビュー曲「生きていたんだよな」は飛び降り自殺をモチーフにした楽曲。この頃は「過激な言葉を歌うシンガーソングライター」というイメージも強かった。
あいみょん自身がこれまでのキャリアの中で最も大きな転機になったと語っているのが、2017年にリリースした「君はロックを聴かない」だ。