トマトが丸ごと1個乗ったそばやチキンナゲットを添えたそば、痺れる辛さの火鍋風そば――。安い・早いが売りの大衆そば業界で、一風変わったメニューを提供するチェーン店がある。

 1都3県に店舗を展開する「名代 富士そば」だ。チェーン店ならではの画一的な店舗運営かと思いきや、さにあらず。富士そばは全店直営であるにも関わらず、店舗の裁量権が大きいため、接客のスタイルや券売機のメニュー構成も多種多様。メニュー開発の自由度が高く、店舗によってはオリジナルのそばも提供する。

 ただ、斬新すぎるオリジナルそばも考え物だ。冒頭に挙げたような「珍そば」の多くは、売り上げに貢献することなく、早々に終売してしまいがち。しかし、その希少性の高さゆえ、一部の富士そばマニアから熱烈な支持を得ているのもまた事実。かくいう筆者もその一人で、10年近くかけて「珍そば」を追い求めてきた。2023年に食べた店舗限定メニューはおよそ60種、そのなかには当然「珍そば」も多く含まれている。

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「珍そば・オブ・ザ・イヤー 2023」

 前置きが長くなってしまったが、今回は筆者が2023年に食べた「珍そば」のなかから、とくに印象が残っているベスト5を選んでみた。いわば、私的「珍そば・オブ・ザ・イヤー 2023」といったところ。富士そばならではの強烈な個性をとくと味わってほしい。

【第5位 たっぷりえびせんそば(高円寺店)】

えびせんそば(写真:筆者撮影)
 

 中華料理の付け合わせに使われるえびせんを豪快に盛りつけた一品。えびせんもそばもとくに手を加えておらず、本当にただ盛りつけているだけ。なんとなくやっつけ感が漂うが、「珍そば」によく見られる傾向なので驚いてはいけない。

 試作品の告知があったのは2023年1月頃、「夏に店舗限定で販売予定」とあり、いささか気が早い話だった。時間が空いてしまうと、そのままうやむやになってお蔵入りしてしまうのではないか(これも「珍そば」にはよくある傾向だ)。

 そんな不安に駆られたが、なんと2月になんの前触れもなく券売機に登場。高円寺店にあわてて駆け込んだのを覚えている。