マジックペンでワキ毛を描いて臨んだオーディション
作品の詳細を聞いて「受けたい!」と熱望した森田は、オーディションに黒木のトレードマークだったワキ毛をマジックペンとアイラインで再現して臨んだという逸話がある。もちろん、そんなことをしたのは一人だけ。奇をてらったわけではなく、「ないから描いていかなくちゃ」ぐらいの気持ちだった(「週刊女性」 2020年3月3日)。
本番には伸びにくいワキ毛を伸ばして臨んだ。初めてビデオ撮影を行う場面では恵美は黒木香となり、周囲から「獣」と言われるほどのプレイで村西を圧倒。「開花」した後、「主張するヴァギナ」となってメディアの寵児となっていく。
母親から抑圧されて育ったお嬢様の恵美が、セックスとアダルトビデオの世界に出会って自らを解放し、女性だってセックスを自ら求めてもいいと世の中に訴えていく様子は、観る者にカタルシスさえ感じさせた。
アダルト業界の描き方や黒木香という実名の取り扱い方に批判が集まった本作だが(筆者も否定的に捉えている)、作品の持つ猥雑なエネルギーや森田の演技に抗いようのない魔力のようなものを感じてしまったのも確かである。
なお、『虎に翼』の伊藤沙莉とは、このときに共演している。伊藤が演じていたのは、女優の気持ちを大切にするヘアメイク係の順子。恵美が黒木香として初めてビデオ撮影に挑むのをサポートするのも順子だった。女性代表として世の中に出ていくのが森田で、裏から支えるのが伊藤という構図は、ちょうど『虎に翼』と裏表となる。『全裸監督』を意識したキャスティングだと考えるのは穿ち過ぎだろうか。
“憑依型女優”と言われるワケ
そんな森田は“憑依型女優”と言われている。準備期間の4か月、黒木香に関する大量の映像や資料を漁った森田には、完全に黒木の口調が乗り移っていた。黒木主演の映像作品を見た感想を森田は次のように語る。
「恥ずかしさを逸脱して獣のような生命力を感じる作品だと思います。私もそういうふうに、むき出しにする気持ちは大事にして挑みました」(BIGLOBE BEAUTY 2019年8月7日)。
森田の豹変ぶりと凄みのある演技を受け止めた俳優たちも驚きを口にする。「絡みの撮影以降は、怖かったです」「彼女の演技に、本当に食われました」(山田孝之)、「いい意味で、引きました」「本当に黒木香にしか見えなかったです」(玉山鉄二)、「化けるというのは、こういうことかと」(満島真之介)などだ(MOVIE WALKER PRESS 2019年8月14日)。