不倫男を奈落の底に突き落とす“悪女”を怪演
演じる役柄を深く掘り下げて、自分に憑依させる。そのことを、森田は「役を生きる」と表現する。「(役の)幼少期の記憶から何からを、自分の記憶と同じくらいの濃度で思い出せないと、本当の意味でその役を生きられないと思うんです」(シネマトゥデイ 2021年6月24日)。
完璧に役を生きることはできないが、限りなくにじり寄っていく。だから、どんな役柄でも演じることができるのだ。
柴門ふみの原作のドラマ『恋する母たち』(2020年)で演じた、山下のり子役も強烈だった。セレブ妻(仲里依紗)のエリート弁護士の夫(玉置玲央)と不倫をする女性で、妻を挑発し、不倫男を奈落の底に突き落として、自分だけ幸せになって去っていく“悪女”をねっとりと怪演している。
当初はのり子に腹を立てていた視聴者が、だんだんのり子に惹かれていくという現象を引き起こした。木村佳乃、阿部サダヲほか、芸達者のキャストが揃っていたが、一番のインパクトを残したのが森田だった。磯山晶プロデューサーは、第1話の撮影の時点で「スタッフは彼女の虜になった」と明かしている(MANTAN WEB 2020年12月12日)。すごいな、森田望智。
朝ドラ『おかえりモネ』(2021年)には、ウェザーエキスパーツ社の気象予報士・野坂碧役で出演。テキパキと仕事をこなす、モネ(清原果耶)にとって頼りになる先輩をさわやかに演じて、山下のり子ファンの視聴者を大いに戸惑わせた。
『妻、小学生になる』(2022年)では新島圭介(堤真一)の年下の上司で「お弁当友達」の守屋好美役、『作りたい女と食べたい女』(2022年)では野本ユキ(比嘉愛未)にフラットに接する同僚・佐山千春役を演じている。
地上波初主演ドラマ『バイバイ、マイフレンド』(2023年)で演じたのは、高校時代の親友との複雑な過去を抱える小説家志望の女性・早川麻衣。「自分の人生との境界が分からなくなるほど まいまいと繋がれた作品です」と振り返っている(Xのポスト 2023年5月30日)。森田らしいコメントだと思う。
若手にして、ロバート・デ・ニーロの風格
圧巻だったのが佐藤二朗主演の映画『さがす』(2022年)だ。森田は死に場所を探す車椅子の女性、ムクドリを演じた。重い前髪、色つき眼鏡、ぶっきらぼうで高圧的な態度……初見では森田だとわからない人のほうが圧倒的に多いだろう。佐藤は「若手にして、もはや女性版ロバート・デ・ニーロの風格」と絶賛している(映画ナタリー 2022年1月22日)。
かつては「自分とかけ離れた人物を演じたい」と語っていたが、もはやどんな人物だって見事に演じてくれるはずだ。『虎に翼』はもちろんのこと、今後どのような演技を見せてくれるのか、楽しみにしたい。