昨年、もっとも衝撃的で忘れられない番組のひとつが10月に放送された『ハイパーハードボイルドグルメリポート』だった。「ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯」というサブタイトルどおり、リベリアの元人食い少年兵や台湾マフィア、アメリカのギャングなど“ヤバい”人たちの食事を通して世界を見るという番組だ。プロデュースしたのは、平成元年生まれで当時入社7年目の上出遼平。リベリアでは上出と現地人ガイドだけという最小限の取材クルー。死の危険すら漂う。事実、元少年兵が住む墓地に向かうと入り口で囲まれ、半ば襲われていた。続編は見たいけど、このままではスタッフがいつ死んでもおかしくないと心配すらしてしまうほど。そんな中、続編が放送された。
なんと今度はカルト教団飯! まずスタッフは、ロシアのウラジオストクへ。建設現場では北朝鮮から送られた労働者たちが働いているだとか、北朝鮮国営のレストランがあるといった日本ではあまり知られていない事実がサラッと映し出される。「ロシア語を勉強しに来た」という従業員の言葉を訳しながら「自分(の意思)じゃない。国が送った子」とボソッとつぶやく通訳の表情が印象的だ。
ドラッグ常習者の溜まり場などを挟み、カルト教団が住む“太陽の町”へ。信者たちはとても穏やか。ベジタリアンの彼らの食卓は美味しそうな料理が並ぶ。両親が離婚し一時、モスクワに住んでいたという少年はその時ツラい目にあったらしく、ずっとここで暮らしていきたいという。カルト教団だと言われていることをどう思うかと聞かれ彼は、そんなことを言うのはここへ来たことがない人だけ、と言ってこう付け加えた。
「人はそれぞれ違うじゃん」
一方、町外れの商店。信者ではない人が営んでいた。彼女は「信者と元の住人が揉めて結局元の住民が出ていった」と苦々しく吐き捨てた。
ヤバい=危険、だけではない。善悪だとかでは割り切れないものがあるから人間は複雑だし“ヤバい”。番組はナレーションやBGMもない。わかりやすくしたり、視聴者を誘導したりはしない。しかし、だからこそ生々しく伝わってくる。いま、視聴者は「テレビ的」なウソにアレルギーを持っているし、お手軽な“リアル”はネットにいくらでも転がっている。ならば、テレビができることのひとつは、普段見ることができない圧倒的でヤバいリアルを見せることだろう。
▼『ハイパーハードボイルドグルメリポート』
テレビ東京 4/9放送
http://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/