目標達成の要は「メダルを獲る!」という全員の本気
バレーはチームスポーツだ。監督の私がどれだけメダルを獲りたいと思っても、それだけでは獲れない。選手一人ひとり、スタッフ全員が本気で「メダルを獲る!」と思わないかぎり、目標は達成できない。メンバー全員が自分の頭で考え、自発的に行動する風通しのいい組織に変えるためには、まず監督がトップダウン式、一方通行の指導をやめることだ。私は選手とスタッフを、同じ目標を持ち、同じベクトル、同じ熱量を持った同志だと考えるようにしている。
人間、一人でできることは限られている。しかし、得意分野を持った人間が複数集まれば、思ってもみなかった大事業を成し遂げることができる。現代は一人のカリスマに頼るのではなく、“チーム”で戦う時代。監督に求められるのは、それぞれの分野で優秀な専門家を集め、彼らがチームとして機能するようにマネジメントする手腕だ。
私は久光製薬の時代からそういう考えだったから、コーチやトレーナーを複数置いていた。最初に代表監督になったときも、当時の日本バレーボール協会強化事業本部長の荒木田裕子さんに分業制の重要性を説明し、スタッフの数を増やしてもらった。
最初に分業制を採り入れたときは、いろんな方から「おまえは女子バレーというものが分かっていない」「そんなやり方が成功するわけがない」と言われた。
でも、野球をはじめ他のスポーツでは昔から分業制が敷かれていたし、企業や一般社会でも分業制のほうがスタンダードだろう。女子バレーの世界が、あまりにも監督中心で、特殊な世界だったと言える。
コーチやスタッフも、もっと注目されるべき
私が分業制を採り入れるまで、女子バレーのコーチやスタッフはまったく光が当たらない存在だった。監督に睨まれないように、たえず陰に隠れ、前に出ないようにしていたのだ。
でも、それではスタッフのモチベーションも上がらないし、いい仕事はできない。私はスタッフもチームジャパンの一員として、もっと注目されるべきだと考えた。
そこで前回の監督就任時から、なるべくコーチ陣にもスポットライトが当たるように工夫してきた。たとえば、取材でサーブについて質問されたら、「サーブコーチに聞いてください」、ブロックなら「ブロックコーチに聞いてください」と言って、コーチがインタビューされる機会を増やしたのである。コーチだけじゃない。私がiPadを使い、データ重視を打ち出してから、アナリストもよく取材を受けるようになった。
スタッフだって注目されたほうがモチベーションが上がるし、生き生きと自発的に働くようになる。そうすればチームの雰囲気もよくなるし、何より監督の私が助かる。監督の嫉妬や支配欲のせいで、分業のメリットを捨ててしまうのはもったいない。
とはいえ、単にコーチに任せるだけでは、チームはばらばらの方向に進んでしまう。スタッフが一体となり、同じベクトルで力を発揮できるように、コミュニケーションにはたえず気を配っていた。