激務を引き受けてくれた宮﨑
女子バレーチームのマネジメントでなにが大変かと言うと、合宿や遠征時の部屋割りである。基本的にツインルームなので、誰と誰を組ませるかで頭を悩ませることになる。部屋割りに失敗すると、プレーにも影響する。
同期や仲良しで組ませればいいかというと、必ずしもそうとは限らない。部屋で先輩が後輩にアドバイスするのも大事な時間だ。考えなければいけない要素が多くて、部屋割りはまるで難解なパズルのようである。私だけではとても解けないので、選手の性格、人間関係を隅々まで把握している宮﨑に毎回助けてもらっている。
女子バレーには女性マネージャーが絶対に必要だ。と同時に、監督は女性マネージャーを味方に付けなければいけない。マネージャーが選手側に付いて、「対監督」でまとまってしまったら万事休すである。
リオのあと、彼女にはヴィクトリーナ姫路のマネージャー・広報をやってもらっていたが、代表監督に戻るにあたって、再び彼女を連れていくことにした。だが、代表のマネージャーは激務だ。宮﨑には「もう無理です」と断られたのだが、いろんな人から説得してもらって、やっと来てくれることになった次第である。
ロンドンでメダルを獲ってから、「女性のチームをどうマネジメントするか」というテーマで講演の依頼を受けることが増えた。聞きに来てくださるのは、主に企業の経営者や管理職の方々だ。私なりの試行錯誤を紹介し、ありがたいことに好評をいただいている。しかし、私が女子選手をまとめることができたのは、私ひとりの力によるものではない。宮﨑さとみという優れた女性マネージャーがいてくれたからこそだ。
カリスマ監督から集団指導体制へ
その他にもアシスタントコーチやトレーナー、ドクターも含めると、スタッフは総勢20人ほどになる(毎年若干入れ替えがある)。分業制を敷き、スタッフの人数が多いのも、眞鍋ジャパンの特徴と言える。
たとえば、コーチはディフェンス、ブロック、サーブ、戦術・戦略というように分野ごとに置いている。技術面だけでなく、フィジカル、メンタル面もいまのスポーツ界ではきわめて重要。情報収集も一人ではとてもカバーできない。だから、トレーナー、メディカルスタッフ、アナリストも複数人必要になる。
一昔前の女子バレーは、大松博文さんや山田重雄さんのように一人でチーム全体を仕切る人が多かった。絶対権力を握るカリスマ監督だ。そういう監督はあまりコーチを使わない。コーチがいても、監督に許可を得ず選手指導したりすることは好まない。自分ですべてを決めないと気が済まないのだ。
私はそういう性格じゃないし、カリスマ性もない。技術面でも、自分の専門であるセッターならいくらでも教えられるが、他の分野はそれを専門にやってきた人に頼ったほうがいいと考えている。
時代の流れもある。いまどき昭和のように「俺についてこい!」と言っても、選手もスタッフもしらけてしまうだろう。
それにもかかわらず、女子バレーの現場には悪しき伝統が残っていて、独裁型の監督が選手に命令し、選手は唯々諾々と従うという雰囲気がある。男子のように自分たちの頭で考え、工夫するという事が少ない。それが最近の男子代表と女子代表の差にもつながっているように思う。