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「戦慄すべき一大怪事件が発生」

 少女卅(30)餘名誘拐 驚くべき大仕掛の密航周旋
 

 静岡県伊豆半島は昔から海賊が立ち回り、太平洋を通過する大型船を襲って物資を掠奪していたが、ここに戦慄すべき一大怪事件が発生した。同地に散在する密航周旋者の一団は元船員の某外国人と共謀して、巧みに地方良家の婦女子を誘拐。家人には巨額の金銭を与えて、甘言をもって納得させ、相当の年限を定めて30人余を集めて海外に売りさばく計画だった。汽船「金華山丸」ほか約600トンの汽船と気脈を通じ、2隻が伊豆沖を通過する際、5隻のはしけに少女を分乗させ、深夜に乗じて汽船に漕ぎ着け、首尾よく乗船させたのはさる6月上旬のことだった。
 

 30余人の犠牲者を乗せた2汽船はかくしていよいよアメリカ大陸に近づいたが、取り調べが厳重なアメリカ官憲を恐れてことさらにアメリカには上陸しなかった。7月上旬、(カナダ)バンクーバーに到着。深夜、少女らを上陸させる手はずだったが、ついにカナダ移民官に発見され、30余人の少女らはことごとく同港駐在の日本の代理領事に引き渡された。代理領事は政府に打電すると同時に、神奈川県警察部に通告。来たる30日、バンクーバー出航の「エンプレス・オブ・ジャパン」号で送還することに決定した。横浜水上署は両船の来着を待って捜査活動を開始する。

現在の伊豆半島の土肥港 ©AFLO

 神奈川県警察部(当時)や横浜水上署が登場するのは、2隻の出港地だったためだろう。女性たちは東南アジアだけでなくアメリカ大陸にも向かっていた。