90年代を代表する日本男子バレーの“スーパーエース”であり、前日本代表監督。“ガイチ”の愛称でも知られる中垣内祐一さん(56)は現在、故郷の福井で「大学教授」と「米農家」を両立する日々を送っている。意外な“転身先”では「バレーの経験が活きている」と語る中垣内さんに、話を聞いた。(全3回の3本目/はじめから読む)
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故郷・福井で「米農家」と「大学教授」の二刀流
――選手たちが能力を発揮できるような環境を整えたのに、パリ五輪まで見届けたいと思わなかったんですか。
中垣内祐一さん(以下、中垣内) 正直に言うなら、少しはありましたね。でもそこは大人の事情で……。というのは冗談で、僕にも人生プランがありましたから。
福井県の実家は江戸時代から13代続く米農家。50歳になったら福井に戻り、米農家を継ごうと20歳の頃から決めていました。まあ、代表監督になり多少プランは遅れましたが。
故郷に戻って間もなく、福井工業大学の運営母体である金井学園の理事長から、大学教授の要請と、中・高・大学のバレーボール部総監督の依頼を受けました。僕のライフプランにはなかったけど「故郷の役に立つのであれば」と引き受けさせていただきました。だから今は米農家と大学教授の二刀流です。
大学の授業で活かされる、フィリップ・ブランから学んだこと
――大学ではどんな授業を?
中垣内 月曜日から金曜日まで8時半から17時半まで勤務し、安全管理論、スポーツ施設論、スポーツ指導などを週に7コマ担当しています。昨年からゼミを持ち、卒論の指導をしていますけど、まだまだ四苦八苦ですよ。
大学では授業の準備が大変。学生が飽きないように話す内容を変えたり、スライドや動画を準備したり……。着任当初は、学生が授業を真面目に聞くのは当然と思っていたけど、もし学生が飽きたり居眠りするのであれば僕のせい、と考えを改めました。
大学では代表監督時代の経験がとても役に立っています。僕はチームミーティングの時、出たとこ勝負でこなしていたのですが、フィリップ(※代表監督のフィリップ・ブラン)は話す内容を日ごろからメモにし、確認しながら喋っていました。だから、ミーティングで話す内容には説得力があり、ロジックの破綻もないので選手やスタッフにスっと伝わる。
「準備がすべて」とフィリップから学んだことを、大学で生かしていますね。