能登半島では漁を再開した港もある。七尾市では営業している寿司店があり、地場産の魚介類が味わえる。
「ただ、七尾市でも能登の宿泊の拠点になっていた和倉温泉は被害が大きく、ごく一部の旅館でしかお客様の受け入れが再開できていません。市内の能登島では再開した民宿もありますが、現実には金沢で泊まり、能登には日帰りで往復というお客様が多いですね」
職員は七尾市に寿司を食べに行くなど、被災後の能登半島にしげく足を運んで調査しているようだ。実体験に基づき、親身に相談に乗ってくれる。「おススメ」に従えば、安心して能登半島へ向かえると分かり、最初の目的地は「千里浜なぎさドライブウェイ」と決めた。
金沢駅の近くでレンタカーを借り、無料の自動車専用道「のと里山海道」へ入る。25kmほどで今浜インターチェンジを下りると、そこがドライブウェイの入口だった。
浜茶屋は「ただもう開けてるだけ、大赤字もいいとこ」
すぐに浜茶屋があったので、寄ってみた。
客はいない。店の人もいない。シーンとしていて、波の音しか聞こえない。
どうしたのだろう。
様子をうかがいながら、「こんにちは」と声をかける。「はーい」と男性が出てきた。
「浜茶屋ちさと」。主人の定免(じょうめん)武治さん(75)は不在にしていて、息子の康弘さん(44)が店番をしていた。
「地震の影響で、ものすごく暇ですわ。ただもう開けとるだけで、大赤字もいいとこです」。康弘さんはため息をつく。
浜茶屋への来客には2通りある。
被災前の能登観光は、輪島市や珠洲市など奥能登が本場だった。金沢方面から奥能登へ向かう途中、もしくは帰りがけに、千里浜なぎさドライブウェイを走る。そのついでに寄る人が多かったのである。
さらに、今浜の海岸を目的にした海水浴客も多かった。
「奥能登へ行く人の流れが少なくなったので、ドライブウェイを走る車も減っています。例年と比べると本当に暇。この辺りで商売をしている人は皆、同じ状況です。頭を抱えていると思いますよ」と康弘さんは言う。
それでも寄ってくれるお客さんはいる。
「輪島に遊びに行った人が帰りがけに来てくれました。『輪島に行ってはみたけど、ご飯を食べるところもあんまりないし、道も悪かった』という話でした。実際に奥能登は観光どころじゃありません。自分の住む家や道路を復活させるのに、皆さん一生懸命な状態です。せめて和倉温泉に泊まれれば、途中で寄ってくれる人もいるでしょうけど、それも難しい」