魚雷発射管室で首吊り自殺をしていた遺体
吉村 唇も、ですか。
白石 唇の色は普通ですが、口の中はカサカサです。口のまわりにもひげが伸びていました。
吉村 不精ひげのように……。
白石 そんなには長うないんですよ。剃ってから4~5日たったようなひげです。
吉村 眼はどうです。
白石 眼は、眼光炯々(けいけい)といいましょう、苦悶したような眼でした。どの遺体も口を大きくあけていましたが、おそらく、艦が沈んだ後、少しでも酸素を吸おうとして口を大きくあけ、そのまま亡くなったからでしょうね。
口を開いた顔というのは、まさしく断末魔の表情ですよね。ものすごいです、もう表現できませんよ。ものすごい形相ですよ。
吉村 遺体の皮膚の色はどうだったんですか。
白石 白いんですが、熱い湯に長く入りすぎると、指先などふやけたようになるでしょう。ああいうような状態でした。それが、ハッチをあけたので外気が入ってきたので、次第に変化しましてね。ちょうど猩紅熱(しょうこうねつ)で高熱とともに出てくる赤い斑紋のようなものがひろがって、それが紫色になってゆく。
吉村 ハッチに近い部分にある遺体から、順々にそうなっていったんですか。
白石 そうです。それから、魚雷発射管室で縊死(いし、首をくくって死ぬこと)していた遺体には驚きました。若い水兵の方で、体格がいい、まさに偉丈夫といった感じでした。酸素が尽きて水兵たちが次々に絶命してゆく。その中で体格のいいこの人だけが、なお生きていたんでしょう。それで皆、同僚が倒れていく、自分はなお息がある。孤独感といいますか、絶望感といいますか、そんな気持からコードよりちょっと太い鎖を梁にかけて、それで縊死したんでしょうね。