最後まで秩序を守って自分のベッドで死んだ水兵たち

吉村 気の毒ですね。

白石 全くですよ。それから、もう一つ驚いたことは、ベッドで死んでいる人たちが、それぞれ、自分の寝るベッドで死んでいることなんですよ。苦しかったでしょうに、それなのに自分のベッドに入って死んでいる。最後の最後まで規則を守っているんですよ。全く驚きました。

吉村 一つの秩序があったわけですね。

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白石 そうなんですよ。これは余談になりますが、私が、艦内に入って写真を撮っては甲板に上がってくるでしょう。新聞社名はいえませんけれども、そんな私を見ていた某社の記者が、「白石さん、中はどうなっているんだね。知りたいな」と言うんですよ。それで私が、「よし、おれが案内してやろう、写真も撮ったらいい」と言いましてね。その記者の持っているカメラの絞りとシャッター速度と距離をセットしてやりましてね、「これやったら写るから」というわけで……。

 それから、かれを連れて階段をおりて行きました。足もとが危いので、懐中電灯を床にむけながら進み、兵員室の入口に立ったんです。その記者は「ブッシュマン」というカットフィルムを入れるカメラを持っていました。それで私は、「いいか」と声をかけましたら、かれは「オーケー」というわけで、それで私は、懐中電灯をパッと兵員室の内部に向けたんです。眼の前に、遺体が並んでいるでしょう。「ウワーッ」と、その記者は絶叫してカメラを落とし、バーッと甲板へ駈け上がりましたよ。それで、ぼくはまた甲板へ上がっていって、「おい、どうした。カメラを落としてきたろう。拾ってこいよ」と言いましたら、「おれは、もういい、もういい。二度と中へは入らん」というわけですよ。まァしょうがありません。ぼくはまた、カメラを拾いに中へ入った。その記者が、艦内でみたことを他社の者たちに話したもんですから、カメラマンは入らんかったですよ。

前部発射管室で防毒マスクもそのままに亡くなった乗員

吉村 誰も入らなかったんですね。

白石 そうです。私としては、誰も撮らなかった写真を撮ったわけで、その写真を一応新聞用にはしたんですけれども、新聞の写真としては、死者の尊厳をそこなうとか、死体が読者に嫌悪の情を与えるものはいけないという倫理規定があって、使われなかったんです。

吉村 すると、カメラを持っている新聞記者で艦内に入ったのは、白石さんだけだったんですね。その写真を撮ってから、どうなさいました。

白石 支局へ帰って現像して、広島の本社へ送りましたけれども、もちろん写真は没です。

※注:吉村氏はこの証言を元に「総員起シ」(文春文庫『総員起シ』所収)を執筆した。