昨年放送されて話題になったNHKのドラマ『アナウンサーたちの戦争』が劇場映画として終戦記念日の翌日から公開される。かつてNHKが国策放送に協力し、戦争に加担した事実を自らドラマ化。過去への反省を込め、現在への警鐘を鋭く鳴らした本作を、NHK出身のジャーナリスト・相澤冬樹がレビュー。
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不世出の天才アナウンサーを事実に基づき描く
男の人ってまったく、かっこつけたようなこと言っちゃってさ。「私には自負がある。ほかの誰とも違う」なんて、結局は周りに流されてるんじゃないの。……でもね、それで苦しんできたことは、よくわかっていますからね。
この映画は元々『NHKスペシャル』で去年放送されたドラマだ。冒頭で「事実に基づく物語」と銘打っている。戦時中の日本放送協会(NHK)で国策放送に協力したアナウンサーたちの話を映画化した。当事者だったNHKならではの作品だろう。
「自分の言葉で民衆を熱狂させる」
「プロパガンダが戦況を左右する」
当時のアナウンサーたちにとって戦争がすべての前提だ。戦いに勝つため放送も寄与するのはごく当然のこと。電波戦だ、謀略放送だと勇ましい言葉が躍るが、彼らはその先に何があるかをまだ知らない。後世から振り返る私たちは戦争がもたらす結果を知っているから、観た後にざらついた感じが残る。制作陣はおそらくその“ざらつき”を承知の上で、ごく普通の人間が戦争に加担する姿をあるがままに描いている。
主人公のアナウンサー、和田信賢は戦前の昭和9(1934)年、NHKに入った実在の人物だ。ニュースや朗読など多方面で早くから頭角を現し、大相撲・双葉山が69連勝後ついに敗れた勝負を名調子で実況。「不世出の天才」と評された。
そんな人気者の和田だが、地道な鍛錬を欠かさないシーンがある。電車に乗りながら外の景色を見て独り言のように実況中継をする場面だ。これは実際にあったエピソードだろう。私はNHKの新人記者時代、先輩アナウンサーが大相撲のテレビ中継を観ながら取り組みの実況を練習していた姿を印象深く覚えている。