「ヒビを入れたガラスを破って!」ヒラリー・クリントンの応援演説

 変化が目に見える形に表れるのには時間がかかるが、はっきり見えない変化を起こしている活動や議論の一つ一つに大きな意義があることを実感させられた瞬間が、先日ありました。アメリカ大統領選に向けた民主党全国大会初日のヒラリー・クリントンの演説です。

 4年に1度、11月に開かれるアメリカ大統領選に向けて夏に開かれる民主党大会とは、大統領、副大統領の指名候補を選出する際に開かれるもので、指名を受けた候補者がスピーチを行う。会場には民主党を支持する著名なスターや前大統領、前大統領候補などがゲスト参加し、スピーチやパフォーマンスを行うこともあります。

カマラ・ハリス。Lawrence Jackson, Public domain, via Wikimedia Commons

 カマラ・ハリスが大統領候補の指名を受けてスピーチをしたのは党大会の最終日の8月22日。その前日には現大統領のバイデン、オバマ前大統領やそのファーストレディのミッシェル・オバマなどの応援演説が行われました。それに続いたのが「ヒビを入れたガラスを破って」とスピーチしたヒラリーの演説でした。

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敗れた事実を受け入れたヒラリーからカマラへのバトン

 2016年の大統領選でアメリカの州ごとに選挙人制度によって、トランプ大統領に敗れたものの、獲得票数はトランプよりも200万票以上も高かったヒラリー。1993年、夫のビル・クリントンが大統領に就任した際、弁護士として特に貧困や犯罪率の高い地域の子どもや家族を支える活動をし、さらに病気やケガをしたときには国民誰もが医療を受けられる国民皆保健制度を作ろうとした。そして新しいファースト・レディの姿を示し、大きな批判を受けながらも、世界中の女性に「あなたは、あなたがなりたい人になってよい」と背中を押してくれたヒラリー。

 2008年に対オバマ、2016年に対トランプで大統領選に出馬し、数々のバッシングにあいながらも初の「米国大統領になりそうな女性」、その将来の可能性を見せてくれもしました。どんなに敗れた体験が重なっても国務長官として活躍し、アメリカの国政と外交に身を尽くし、「アメリカのためにやらなければならない仕事があるから」と邁進したヒラリー。

ヒラリー・クリントン。Gage Skidmore, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 彼女は間違いなく、アメリカ初の女性大統領になるはずだった、なるべきだった人だ。「もし彼女が大統領だったら……」と、考える人は少なくないものの、彼女自身もそんな過去の可能性に思いをはせていると発言することもあった。

 しかし、そうはならなかった事実を受け入れて、2024年8月19日、ヒラリーはカマラ・ハリス副大統領をアメリカ初の女性大統領にするために、ヒラリーはスピーチをしたのです。