――なにかを禁じられて、泣いたり、反抗したりは。
桃戸 どうなんだろう……少しはしてたのかな。子供の頃は、大きい声で泣くことが一切なかったらしいんですよ。赤ちゃんのときからそうだったみたいで、泣いてもわかんないぐらいの声で泣いてたみたいで。でも、母が厳しかったのはそれぐらいだったので。どっちかというと、受験に対して凄かった。
母に言われて中2から大学受験の勉強
――お母さんは教育熱心なところもあったそうですが、それは桃戸さんが小さい頃から?
桃戸 私を小学校から私立に入れたのも、母の希望だったんだと思いますし。やっぱり、大学に関しても熱心でしたね。私は「専門学校でいい」と話してたんですけど、「学歴がないと、この先どうにも生きていけない。大学にはどうしても行ってほしい」みたいに返されて。塾も通いたくなかったんだけど、大学受験に向けて中2ぐらいから通ってましたね。
――お母さんが高学歴ゆえに、娘も同じように大学に進んでほしいと。
桃戸 いや、父も母も専門学校卒なんですよ。母は看護師だったので、その専門学校を出ていて。ふたりとも大学に行ってないからこそ、行ってほしかったみたいですね。
こっちは受験勉強なんてしたくなかったし、「なんで大学に行かなきゃいけないんだろう」って思ってましたけど、母の「勉強をやってほしい」という気持ちがすごく伝わってきたので、やるしかなかったですね。今思えば、勉強をやっていい大学に行けたのはよかったことですが。
――上智大学を卒業していますが、お母さんが上智に行けと。
桃戸 上智一択ではないですけど、「なるべく、いい学校に行け」と言われてましたね。最低でも、MARCH以上。それで、私の成績でギリ受かりそうなのが上智かな、みたいな。でも、「とりあえず4年制の大学に行ってくれればいい」って感じでしたけどね。
リストカットしたり、橋の上に立ったり…母のうつ病が悪化してしまったワケ
――高2の頃からお母さんの情緒が不安定になったとおっしゃっていましたが、大学に入ってからはどのような状態に?
桃戸 高3あたりから、かなり重くなっていましたね。更年期障害も始まってたし、そこにうつ病も重なってしまってたので。で、家出をするようになったんです。買い物に行ったきり、帰ってこなかったり、線路のそばにずっと立っていたり、橋の上に立っていたところを警察に保護されたりとか。それで電話が来て、引き取りに行きましたし。あと、リストカットもするようにもなって。
――お母さんのメンタルが急激に悪化したきっかけみたいなものは、なにか思い当たりますか。
桃戸 私が大学に入ったタイミングで、看護師に復帰したんですよ。でも、あまりにブランクがありすぎたのと、離れていた20年の間にシステムがすべて電子化しちゃっていて、ついていけなかったんです。それで、うつ病が重くなった気がしますね。
働けないことに対して自信がなくなって、「自分の価値って、どこにあるんだろう」となっちゃったんじゃないかなって。その考えがどんどん大きくなって、家事もできなくなった感じですかね。
――「線路のそばに立ったり、リストカットをしていた」というのは、希死念慮があったわけですよね。
桃戸 そうだと思います。私が大学1年のときに、自殺で亡くなりましたから。
撮影=三宅史郎/文藝春秋
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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
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